

リーボックの事例と同様に、ロッテのガム「Fit's(フィッツ)」の大ヒットの陰にもYouTubeが重要な役割を担っていた。
「噛むンとフニャンフニャン~♪」という独特なメロディーラインとダンスで構成されるテレビCMのインパクトが強かったこともあるが、YouTubeで継続的に動画が公開されることでフィッツの認知が拡大、商品の購入へとつながっているのだ。
「まずは新製品のガムよりも“歌とダンス”を広めることを優先した」(宮下慎・ロッテ商品開発部ブランド担当)。“歌とダンス”が広まることで新製品の認知も深まると踏んだのだ。そこで重要な役割を担ったのがYouTubeだった。
フィッツ ダンス コンテストを開催しテーマソングに合った振り付けが撮影された動画を募集。すべての応募作品をYouTube上で公開した。投稿作品の再生回数が最も多い者には、賞金100万円が贈呈される。現在、3回目のコンテストが進行中で、1回目の投稿作品数は1732件、優勝作品の再生回数は13万回に上った。
テレビCMに一極集中していた宣伝方法を修正。通常の新製品と比較して、テレビCMへの出稿量を減らし、YouTubeでの仕掛けやイベント開催に宣伝コストをかけて、フィッツと若年層との接点を増やした。
ガムの新製品におけるヒットの目安は、年間販売数量300万~500万個といわれているが、フィッツのそれは7700万個。小売り金額ベースで約100億円を売り上げるお化け商品となった。
業界は若年層によるガム離れが進み、市場規模は04年の1881億円をピークに5年連続で縮小していた。業界首位のロッテにとって看過できない事態であり、市場縮小を食い止める大型の新製品投入は急務だった。フィッツダンスはロッテにとって、またガム業界にとっても救世主となったのだ。
うれしい誤算もあった。親しみやすい“歌とダンス”は、小学生のあいだでも大人気となり、運動会の出し物として取り上げられるようになった。コアの若年層よりもさらに若い世代に認知され、息子・娘のためにスーパーでフィッツを買い求める主婦が増えているという。若年層のガム離れに歯止めをかけたフィッツの動画マーケティングは、年齢層を超えてファンを増大させている。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 片田江康男)