11歳にして故郷に靴店を開業する

 サルヴァトーレ・フェラガモは、1898年にイタリア南部の町、ボニートで生まれた。幼い頃から靴屋で働き、ナポリでも修行。もう学ぶことはないと感じ、はじめて靴店を故郷ボニートに開業したのが、わずか11歳のときである。

 ほかにはない上質の靴は、たちまち評判を呼び、店は繁盛したのだが、田舎町の靴作りには限界を感じていた。そんなとき、アメリカに渡っていた兄からの話を聞き、夢を掴むためアメリカ行きを決心し、海を渡るのである。それが、大きな転機となった。

 カリフォルニアのサンタバーバラに店を開いたサルヴァトーレは、映画の衣装監督の下でも働いた。そこで、ダグラス・フェアバンクス、ルドルフ・ヴァレンチノやジョン・バリモアといった俳優たちの靴を手掛け、信頼を勝ち取っていったのである。

 同時に、この頃から靴をたんに作るだけではなく、足そのものの構造に関心が向きはじめたことから、南カリフォルニア大学に通いはじめる。科目は解剖学である。もちろん、足の構造への興味は、足を痛めない靴を製作することに繋がるからに他ならない。

 足の骨格について研鑽を積んだサルヴァトーレは、当時多く見られた足の変形が遺伝ではないことに気づく。足にピタリとフィットし、“最高の履き心地”と称されるフェラガモの靴には、骨格から考えられた多くの知恵が詰まっているのである。

 その後、ハリウッドに移り、お店の傍ら映画の衣装にも携わる。「スターの靴職人」という名声を得るのはこの頃からである。