──先日、ビール用に収穫されたコリアンダーの写真を拝見しました。スパイスまで自家製とは凝ってますね。

自家製のマスタードとソーセージ。つぶつぶした食感が楽しい

「先日は山椒もビール用に収穫しました。和山椒ってビールのフレーバーに入れると旨いんです。自分はそういう脇役みたいな作物を栽培するのも好きなんですね。日本では全然美味しいマスタードって売ってないんです。ならつくってしまえ、と。掃除とか大変なんですけど。つぶつぶした食感を楽しんでもいいし、食べる直前に挽いてもいいかな、と。ソーセージに添えるんですけど、これが絶品なんです」

 1994年の細川内閣による規制緩和でビール酒造免許の取得条件が引き下げられたことで、全国にブルワリーができたが、すべての材料を自然栽培で育て、しかも加えるスパイスまで自ら手掛けているところはない。原材料を贅沢に使った豊かな味はまさに農家がつくるビールの味だ。

 出来立てのビールは旨い。採れ立ての賀茂茄子をふっくら焼いて、自家製の麹で作った醤油麹をつけて食べ、ビールを飲む。すると、さらに旨い。店ではピザも提供しているがその生地の原材料である小麦粉も自家製だ。ビール粕を餌として与えて豚を育ててもらい、それをソーセージやハムなどに加工している。おいしいものが好きな人がつくるものだから、どれも間違いがない味だ。

 自然栽培はなかなかビジネスにならない、とされてきた。しかし、日本酒やビールといったものと組み合わせ、おいしさを売りにすることで唐澤さんは果敢にその部分に挑戦している。

「僕はおいしさとは官能的で、本能に訴えかけるものだと思っています。人間という動物が感じる最上級の快感だと思う。ドーパミンからエンドルフィンからたくさんあふれ出しちゃって、脳のシナプスが大変(笑)みたいな。僕はそういうものを目指した物づくりをしていきたい」

 たしかに肉や魚には庶民的なものから高級品まで様々な種類がある。しかし、一部の果物をのぞき農産物はそうした違いをまだ打ち出せていない。今の流通の仕組みでは品種や栽培方法、生産者を選んで野菜を買うことは難しい。しかし、それは不可能なことではないように思う。ワインは、ロマネ・コンティのような高価で希少性の高いものから安価なチリワイン、栽培方法にこだわったビオワインまで様々でそれぞれに違ったおいしさがある。野菜も安価なものから個性的なものまで選べる時代がやってくるのかもしれない。

「イベリコハムであったり、プロシュートであったり、モッツァレラチーズであったりする海外の産地を訪ねてみると、おいしい食べ物を求めて世界中から人が集まっていました。僕はそれを求めて世界から人が集まる、そんなところを目指しているんです」

 鹿嶋パラダイスは食に関わるイベントを多く開催している。おいしい野菜とビールがある農園には唐澤さんのポジティブさに惹かれて、多くの人が集まってくる。そうか、ここはパラダイスなのだから当然か、と妙に納得した。