あらゆる「商品」は
「価値」を乗せるメディア

神田 前田さんは、伝わるプレゼンのためには、徹底的に「相手の目線」で考えることが重要だとおっしゃっていますね。
 ただ、私は、前田さんがそれをつかんだのは、携帯電話の営業マンとして「売れない経験」をされたときではないか、と思います。
 携帯電話を売るために、どうすればいいかを必死で考えた。実はその過程で、お客様が求めているものについても、深く考えたのではないでしょうか?

前田 そうですね。まぁ、当時は結果を出すためにガムシャラにやっていただけなのですが、その過程で、自然と営業先の社長さんが「何を心配しているか?」「何を求めているか?」などということを考えましたね。
 漠然と営業していても売れないですから、そうせざるを得なかったというか……。
 それで、たとえば、災害が起きたときでも全社員の安否確認や連絡がとれるようにしておきたい社長がいれば、その思いに応えるような伝え方にしていったのです。
 それは、僕自身の思いでもあるから、心を込めてプレゼンができます。
その感覚をつかめるようになってから、営業成績は見違えるようになっていきました。

神田 素晴らしいですね。その結果、携帯電話という「モノ」を売っているのではなく、携帯電話をもつことによって得られる「大切な人とのつながり」を売っていることに気づいたわけですよね。
 携帯電話に限らず、具体的な商品は「価値」を乗せるメディアですから、携帯電話を売ろうとする限り、携帯電話を売ることはできない。そのことに、私たちは気づかなければならない。

前田 本当にそうですね。過疎地のおばあちゃんに売るのならば、携帯電話をもつことで、都会に出ている息子さんが「いつでも連絡がつく」と安心するかもしれない。
子どもを安心させるというのは、切実なニーズだと思うんです。
 このように、相手によって伝える内容は違いますが、「大切な人とのつながり」という根本的な価値は変わらないのかもしれません。その価値に、私自身のウソ偽りのない思い(念い)が重なれば、きっとお客様も共感してくださる。携帯電話という「モノ」は、その私の「念い」を込めた「価値」を乗せるメディアなのですね。

神田 それこそが、ビジネスなのだと思います(次回につづく)。

<プロフィール>神田昌典(Masanori Kanda)
経営コンサルタント・作家。株式会社ALMACREATIONS代表取締役。日本最大級の
読書会「リード・フォー・アクション」主宰。上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士。コンサルティング業界を革新した顧客獲得実践会を創設(現在「次世代ビジネス実践会」)。のべ2万人の経営者・起業家を指導する最大規模の経営者組織に発展。わかりやすい切り口、語りかける文体で、従来のビジネス書の読者層を拡大。「ビフォー神田昌典」「アフター神田昌典」と言われることも。『GQ JAPAN』(2007年11月号)では、「日本のトップマーケター」に選出。2012年、アマゾン年間ビジネス書売上ランキング第1位。著書に、『稼ぐ言葉の法則』『あなたの会社が90日で儲かる!』『非常識な成功法則【新装版】』『口コミ伝染病』『60分間・企業ダントツ化プロジェクト』『全脳思考』『ストーリー思考』『成功者の告白』『2022――これから10年、活躍できる人の条件』『不変のマーケティング』『禁断のセールスコピーライティング』、監訳書に、『ザ・コピーライティング』『伝説のコピーライティング実践バイブル』『ザ・マーケティング【基本篇】』『ザ・マーケティング【実践篇】』などベスト&ロングセラー多数

 

<プロフィール>前田鎌利(Kamari Maeda)
株式会社 固 代表取締役。一般社団法人 継未 代表理事。1973年、福井県生まれ。東京学芸大学卒業後、光通信に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。2010年に孫正義社長(現会長)の後継者育成機関であるソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、初年度年間総合第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして幾多の事業提案を承認されたほか、孫社長のプレゼン資料づくりも数多く担当した。その後、ソフトバンク子会社の社外取締役や、ソフトバンク社内認定講師(プレゼンテーション)として活躍。著者のプレゼンテーション術を実施した部署で、決裁スピードが1.5~2倍になることが実証された。2013年12月にソフトバンクを退社、独立。ソフトバンク、ヤフー、ベネッセコーポレーション、ソニー、Jリーグ、大手鉄道会社、大手銀行などのプレゼンテーション講師を歴任するほか、全国でプレゼンテーション・スクールを展開している。著書に『社内プレゼンの資料作成術』『社外プレゼンの資料作成術』(以上、ダイヤモンド社)がある。サイバー大学客員講師