サマーコテージで「なにもしない」

 フィンランド人にとっての理想の夏休み。それは、4週間の休暇をすべて田舎の湖近くのサマーコテージで過ごすことです。生活の忙しさや町の喧騒から離れ、自然の中に溶けこむのです。

 サマーコテージとは夏の休暇を過ごすコテージのことで、多くの人は湖の近くに持っています。別荘のようなものですが、特にお金持ちの人でなくても、ふつうに働いていればサマーコテージを持っている人はたくさんいます。フィンランド人にとって、夏をコテージで過ごすことはふつうのことなのです。

日本人は、真の意味で「休めて」いないモニカ・ルーッコネン Monika Luukkonen 北フィンランドに住む作家・ノンフィクションライター。フィンランドのライフスタイル専門家。1971年フィンランド生まれ。企業のマーケティング担当としてフィンランドと日本を往復したり、日本に滞在した経験をもつ。2000年より翻訳家、作家としての活動をはじめ、現在は「Monika Luukkonen Literary Agency」を経営。フィンランドのシンプルな生き方、考え方を世界に広めるべく、情報発信を続けている。ひとり娘の母。著書に『ふだん着のフィンランド』(グラフィック社)がある

 コテージにいるあいだ、特別なことはなにもしません。「なにもしないこと」が必要なのです。なにもしないことが、冬から次の夏まで続く仕事や家事、育児などの役割をしっかりとこなす力を養ってくれます。

 私のサマーコテージ生活では、湖の近くの石の上に座って瞑想をします。なにもない空間を見つめ、湖の向こう側の岸を眺めます。そして、本を数冊読み、親せきと会います。田舎道の両側にある森の中を長い時間散歩します。シンプルに、地元でとれたものを食べます。

 それから、冬に備えて菜園のイチゴや野生のブルーベリーを摘み、プレザーブにしたり、冷凍したりします。夏のごちそうを隠して冬じたくしているリスのように。これで冬に夏をまた楽しむことができます。そして、ビタミンも保存できるのです。

 この夏は特にブルーベリーで冷凍庫をいっぱいにしました。夏を存分に楽しみ、冬に備えつつ、冬を楽しむための準備もするわけです。

 フィンランド人は、自然と静けさにかこまれたサマーコテージで、家族とともにゆっくりとした時間を過ごすことが好きです。それが豊かさなのです。この「なにもしない」ぜいたくな時間を一年間ずっと楽しみにしているのです。