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ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一

百貨店への商品納入をめぐる
執念の戦い

北 康利 [作家]
【第26回】 2016年10月5日
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また偵察行ってくるわ

 木原は和江商事からの受注に備え、新たにミシン16台を購入したのみならず、縫製工の募集まで行なってくれた。

 幸一も木原の熱意に応え、高品質のブラジャーづくりに取り組んでいった。

 一方、東京に定期的に出張して半沢商店からコルセットを仕入れる“東京飛脚”も続けていた。

 相変わらずこれは売れる。しかし幸一は抜け目なく次の一手を探っていた。

 「また偵察行ってくるわ」

 彼は“東京飛脚”をこう表現するようになる。

 彼が“偵察”という言葉を使ったのは、半沢商店からコルセットを仕入れながらも、彼らがそれをどこに作らせているかの情報収集を念入りに行なっていたからである。

 時には半沢商店の店内の伝票を盗み見ることさえあったという。産業スパイさながらである。

 (いつまでも半沢はんの風下についているわけにはいかん)

 幹部たちには自分の思いを正直に語った。

 「川口、これからは半沢はんに代わって、うちが直接百貨店に納入していきたいんや!」

 川口郁雄は思わず幸一の顔をまじまじと見つめた。

 この男はいつの間にか、商売の世界を戦場と心得るようになっていたのだ。弾は飛ばずとも、命をとるかとられるかである。“偵察”という軍隊用語を使ったのも、そうした気持ちの表れだ。

 彼の覚悟を知った川口は、幸一についていくと決めたのは間違いではなかったと今さらのように思っていた。

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北 康利 [作家]

きた・やすとし/昭和35年12月24日愛知県名古屋市生まれ、東京大学法学部卒業後、富士銀行入行。資産証券化の専門家として富士証券投資戦略部長、みずほ証券財務開発部長等を歴任。平成20年6月末でみずほ証券退職。本格的に作家活動に入る。“100年経営の会”顧問。松下政経塾講師。著書に『白洲次郎 占領を背負った男』(第14回山本七平賞)、『福沢諭吉 国を支えて国を頼らず』、『吉田茂ポピュリズムに背を向けて』(以上、講談社)、『陰徳を積む 銀行王・安田善次郎伝』(新潮社)、『西郷隆盛命もいらず、名もいらず』(WAC)、『松下幸之助 経営の神様とよばれた男』(PHP研究所)などがある。最新刊は『佐治敬三と開高健最強のふたり』(講談社)。


ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一

ブラジャー。この華やかな商品に一生を捧げた男がいた。戦後京都を代表するベンチャー企業「ワコール」を創業した塚本幸一である。インパール作戦の生き残りという壮絶な戦争体験を持つ彼は、いかにして女性用下着に出会い、その未開市場を開拓していったのか。ベンチャースピリット溢れるその豪快華麗な生涯を、いま最も注目される評伝作家・北康利が描きだす!

「ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一」

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