こういう回答かと意外な知識の発見もある。回答する人の知らなかった面も見えてくる――。コンスタントに質問が出され、黙っていても活発に回答される――。そういうサイクルが組織に根付けば、知識と経験の共有には理想的だ。それが当たり前になっているのが、専門家集団の応用地質(2008年度売上高466億円、東証一部上場)だ。

 知識共有がうまくいっていない組織が多い中で、いかにして応用地質はこうした好循環を組織に定着できたのか。今回は応用地質のエキスパート・プラットフォームへの取り組みについて、取り上げてみたい。

高度に専門的で多様化する業務
知識・経験の組織化は死活問題

 応用地質は、地質工学全般のコンサルティングを行う、高い技術力を持った専門家集団だ。もとは理学部地質学科の卒業生の活躍の場をつくろうと創業された応用地質は、地質の組成などを探る理学とそこに土木建築ができるかをみる工学の接点でビジネスを伸ばしてきた。

 学際的な事業領域は、建設が生態系に与える影響や防災など、さらに拡大を続けている。また、公共機関から民間、さらに住民まで様々なステークホルダーを巻き込むプロジェクトへと進化している。

 約1100人の正職員のうち7割強が技術者。また、営業も顧客から技術的な質問を受ける。業務が多様化しても、顧客から見れば担当者は応用地質を代表して全ての質問に答える専門家であって欲しい。つまり、専門性や経験へのアクセスが日々求められる仕事なのである。しかも、一箇所に集中する他社も多いが、拠点戦略により日本全国をカバーするため、例えば地方の営業所の担当者はそのままでは社内に散らばる知識・経験を活用することは容易ではない。

 かつて応用地質では、コンサルティングの報告書が「富士山の高さ」ほど積み重ねられてきたが、過去の経験をうまく使えていないのが実情だった。情報共有・再利用(応用地質ではKM(Knowledge Managementの頭文字)と呼ぶ)が大きなテーマとして浮かび上がったのである。