なぜ、頑張らない、踏ん張らないほうが
力が出るのか?

 繰り返しますが、ウェイト・トレーニングが悪いと言っているわけではありません。

 ただ、体の動きをよくしようと筋肉をつけることで、「骨ストレッチ」で重視している骨身にまかせた動きはかえって妨げられてしまいます。

 目には見えない体の骨組みは、身体感覚を支える大事なポイントです。

 わかりやすく言えば、骨が意識できるようになればなるほど、筋肉に頼らなくても効果的に力が出せるようになり、その分、力ずくの動きでなくなります。日本の武術でいう「柔よく剛を制す」が可能になってくるのです。

 ここで問題となるのは、力を出すために踏ん張ろうとする点です。

 これはピッチングの場合に限りません。走る時にも、親指や母指球(親指のつけ根の盛り上がった部分)に力を入れて、地面を蹴るようにして前に進むことが指導されます。相撲やレスリングでも、組んだら倒されないように必死になって踏ん張ろうとすることが求められることが多いでしょう。

 驚く人も多いかもしれませんが、実際には踏ん張らないほうが力を出すことができ、体にも過度な負担はかかりません。

 踏ん張らないほうが全身の緊張がほどけ、無駄な力を使わずに動作ができるのです。

 その点を実感するため、骨ストレッチの講習会で指導している「ダブルTの立ち方」を紹介しましょう。

不思議と安定して崩れない、
「ダブルT」の立ち方

 まず両脚を肩幅に開き、左右の脚の中指からかかとへと通る縦のラインと、くるぶしの両側を結ぶ横のラインの交点を意識して立つようにしてください。

 2枚のA4サイズの紙にそれぞれTの字を、見下ろした時に上下が逆になるようにして並べ、Tのラインの横棒の上に左右のくるぶしの2点、縦棒の上に中指の中心を置いて立つとわかりやすいでしょう。

トレーニングに励むほうが<br />体に悪い場合がある

 このTの縦横のラインがつながる交点が、あなたの体の重さが最もストレートに地面にかかる「重心点」であると考えてください。

 紙がなければイメージでもかまわないので、ダブルT=重心点を意識して立ったあと、パートナーに横から押してもらってください。

 無理に踏ん張ろうとしなくても体が安定し、まさに暖簾に腕押し状態。女性やお年寄りでも容易に倒されなくなるため、驚く人も多いでしょう。

 ダブルTの立ち方は秘技でも何でもなく、その場でやってみれば、私の指導を受けなくてもすぐに体感できます。受け止める側に柔軟な感覚さえあれば、無理に厳しい修行を経なくても動作の本質はつかみとれるのです。