年間160万件の実績で
身近になった「眼内レンズ」

 加齢に伴ってかかりやすい目の病気のうち、特に気を付けたいのが、「白内障」「緑内障」「加齢黄斑変性」の三つ。1位の緑内障を筆頭に、いずれも失明原因の上位の病気となっている(図2)。

出典:厚生労働省 平成17年度研究報告書

「かすんで見える」「光をまぶしく感じる」「ものが二重に見える」といった症状が出てきたら白内障の疑いがある。白内障は目の中でカメラのレンズに相当する「水晶体」が濁ることで発症する。

 白内障の原因はいくつかあるが、大多数は年を取るのに伴ってかかりやすくなる「加齢白内障(老人性白内障)」だ。早い人だと40代で発症。50代から増えてきて、70代以上では、ほぼ全員が白内障と見られている。白内障は、いずれ誰もがかかる病気なのだ。

 困ったことに初期症状がほとんどないうえ、比較的ゆっくり症状が進む。そのため、本人が病気と気づかないこともある。

 症状が軽い場合、点眼薬による治療が行われることもあるが、日常生活に支障をきたすほど症状が悪化したら手術を受ける。手術は、濁った水晶体を取り除き、代わりに「眼内レンズ」を入れる方法が主流だ。

 「目にメスを入れる」と聞くだけで、少し躊躇してしまいそうだが、今では年間約160万件とも言われる実績がある一般的な手術。

 ちなみに、眼内レンズを入れたにもかかわらず、「見えにくい」と感じる人がいるが、理由の多くは選んだ眼内レンズが生活スタイルと合っていないこと。「遠くを見ることが多いのに、近くがよく見える眼内レンズを選んでしまったり、近くを見ることが多いのに、遠くが見える眼内レンズを選ぶと、ミスマッチが起こりやすい。手術前に医師によく相談して、自分の生活スタイルにあったレンズを選んでほしい」(所 敬・東京医科歯科大学名誉教授)。

 「視野が欠ける、狭くなる」といった症状が出るのが、緑内障だ。眼圧の上昇などで、目から入った情報を脳に伝える視神経に障害が生じ、視野が欠けたり狭くなったりする病気だ。日本人では正常眼圧緑内障といって、眼圧が正常でもこの病気になることがあるので注意が必要だ。

 白内障と同様に、ゆっくり進行していくため(急性緑内障発作を除く)、症状がかなり進行しない限り自覚症状がないことがほとんどである。

 失明原因の1位となっていることからも分かるとおり、緑内障は治療が遅れると失明することもある。早期発見、早期治療が欠かせない。

 「ものがゆがんで見える」「視野の中心部が暗い」という人は、加齢黄斑変性の可能性がある。白内障、緑内障に比べると知名度は低いが、欧米では失明原因の1位。日本でも近年、患者が増えている。目の奥にあり、視細胞が集まる「黄斑部」と呼ばれる場所に障害が起こることで、視力が低下する。

 加齢黄斑変性には「萎縮型」と「滲出型」の2種類あるが、治療法があるのは新しくできた血管から水分が漏れ出して網膜を押し上げる「滲出型」。日本人に多いのはこのタイプだ。治療法はいくつかあるが、近年は、薬を目に注射して新生血管を縮小させる方法が主流になってきた。