パフォーマンスを上げるコツは、
ラクな体の使い方

 たとえば、江戸時代の風俗画などを見ると、今のランニングとはフォームの異なる、前傾姿勢で倒れ込むように走っている姿が描かれているでしょう。
 残されている記録によると、飛脚の中には一日に200キロ余りの距離を走破し、手紙や荷物を届けていた強者もいたといいます。一般庶民が歩く距離にしても、現代人とは比較にならなかったはずです。
 当時の人たちは、現代人のように体を鍛えるために歩いたり、達成感を求めるために走ったりしていたわけではありません。
 ちょっと体を動かしただけでヘトヘトになっていたら、生活そのものが成り立たなくなりますから、井戸での水汲み、薪割り、雑巾掛け、鍬を使った農作業……どれも無駄のない合理的な体の使い方を心がけていたでしょう。

 かく言う私も、現役時代は太ももをしっかり上げ、腕もしっかり振る、地面を思いきり蹴る、といったスプリンターの模範のような走りをしっかり追求し、現代体育の発想に染まりきっていたのですが、現役引退後、日本の古武術などを学んでいくことで、本当の意味で合理的で効率のいい体の動かし方を追求していく感覚が身についていきました。

 そこで求められていたのが、腕力などに頼らない、ラクな体の使い方です。
 ラクに動けるからこそ、強さが発揮できる。努力しないですむほうが、苦労を強いられないほうが、パフォーマンスは上がる……そうした発想そのものが、私にとっては人生観が覆るくらい衝撃的なことでした。
 それが事実であるとしたら、その感覚を日常にどう取り入れていくか?個々の競技のルールの中にいかに当てはめるか?

 もちろん、昔の日本人の身体感覚が優れているといっても、当時の映像があるわけでもなく、科学的な裏付けが確認できるものではありません。
 ただ、体の使い方をほんの少し変えることで動きがスムーズになり、多くの人がその効果を実感できるのであれば、それ自体が仮説の実証になります。