質問の重要性がわかる「○○○の実験」

 前回、「良い質問は気づきを与える」と言いました。「質問で新しい気づきを得る」ことは、コーチングを受けることで得られる最大の「価値」ですが、同時に、コーチングを知らない人にとっては「どういうことなのか、わかりにくい」と言われることが多いのも事実です。

 そこで、「質問で新しい気づきを得る」とはどういうことなのか、そしてそれをどのように実現するのかについて、詳しく解説してみたいと思います。

 まず、皆さんに、次の「selective attention test」という
YouTubeのビデオ
をご覧いただきたいと思います。動画の時間は2分ほどです。

 ビデオを観ながら、「白いユニフォームの人たちが、合計何回パスをしているか」を数えてください。答えはこのビデオの後半に出てきます。

 YouTubeを観ることができる環境の方は、この先は読まずにやってみてください。そして、パスの合計回数を数え終わったら、ここに戻ってきてください。では、どうぞ。

 さて、いかがだったでしょうか?

 この実験は1999年に紹介され、その後世界中で有名になりました。なので、このビデオについて本で読んだ方や、YouTubeなどですでに観たことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。

 YouTubeをご覧になれない方のために、このビデオについて簡単に説明しておきます。

 このビデオには、バスケットボールをしている2つのチーム(白いユニフォームと黒いユニフォーム)が出てきてボールをパスで回しています。

 最後までビデオを見ると、「正解は15回です」というテキストが映し出されます。そしてその直後、画面に、「ところで、ゴリラがいたのに気づきましたか?」という質問が表示されるのです。

「えっ」と思ってビデオを見返すと、1分ほど過ぎたところで、ゴリラの着ぐるみを着た人が画面右から入ってきて、ポーズをとったり動きまわったりしてから、画面左へと消えていくことに気づきます。最初に観たときにはまったく気づかなかったという人が、きっとたくさんおられるはずです。

 なぜ、そんなことが起こるのでしょうか?

 この実験では、最初に「白いユニフォームの人たちが、合計何回パスをしているか」と問いかけることで、意図的に「白いユニフォームを着た人たち」に意識を向けさせています。

 ハーバード大学時代にこの実験を行なったニューヨーク・ユニオンカレッジのクリストファー・チャブリス教授とイリノイ大学のダニエル・シモンズ教授によると、実験の対象者や場所が変わっても、約50%の人たちが、ゴリラの存在にまったく気づかなかったそうです。

 両教授はこう述べています。

「ゴリラが見えないのは、視力に問題があるからではない。目に見える世界の、ある一部や要素に注意を集中させているとき、人は予期しないものに気づきにくい。たとえそれが目立つ物体で、自分のすぐ目の前に現れたとしても。つまり被験者は、パスを数えるのに夢中で、目の前のゴリラに対して『盲目状態』になっていたのだ」

 私たちの脳は、なにかに意識を向けると、他の情報が入りにくくなるという性質を持っています。今回のビデオでゴリラを見つけた人でも、別の場面では「盲目状態」になるかもしれません。

 では、この同じビデオを使って、最初の質問を次のように変えてみたらどうでしょうか?

「ボールを投げている人は全部で何人ですか?」
「ボールを投げていない人は何人いますか?」
「ボールを投げている人は男女何人ずつですか?」

 私の職場で、合計9人にこれらの質問のいずれかをしてからビデオを観てもらったところ、どの質問の場合でも、全員がゴリラを難なく見つけました。白いユニフォームだけでなく、黒いユニフォームの人にも注目するようになったため、途中で入ってくる「異物」であるゴリラに目が向くようになったのです。

 このように、人の意識は、質問によってコントロールすることが可能です。質問が変わると、具体的に見えるものが変わります。

「質問で新しい気づきを得る」とは、こういうことなのです。