個性的な大学の創設に携わり、大学改革を実践してきた教育者として。また日本の企業経営に警鐘を鳴らし、わが国初のシンクタンク、ベンチャービジネス支援を主導した経済学者として、野田一夫氏の功績は大きい。ピーター・ドラッカーの学説の、日本への最初の紹介者でもある野田氏が語る「リーダーの条件」とは?

ドラッカーの魅力は「多くの経営者と接しながら蓄積した経験知」

 航空機製造のエンジニアだった父に憧れ、将来は大学で航空力学を学びたいと思っていた野田氏。ところが戦後、占領政策によって夢が絶たれ、理系から文系に転じている。経営学を専攻するものの、古色蒼然とした学問に嫌気が差していたとき、アメリカから帰国した先輩が1冊の本をお土産にくれた。

『The Practice of Management』、著者はPeter Ferdinand Drucker。

野田一夫事業構想大学大学院名誉学長 手に持っているのがピーター・ドラッカー著の翻訳本『現代の経営』とその続編。発行は1958年。

 一読し、「これこそ日本の経営者が知るべきものだ」と感じた野田氏は、ドラッカーに宛てた手紙を書き、翻訳の許可を得て『現代の経営』(自由国民社)の出版を実現させた。この本はドラッカーが日本に浸透するきっかけとなり、「ピーター」「カズオ」とファーストネームで呼び合う親交が続いたという。

ドラッカーの魅力は「多くの経営者と接しながら蓄積した経験知」だと野田氏は言う。二人のエピソードのなかから、経営者のあるべき姿として語られるのが、鉄鋼王として歴史に名を残すアンドリュー・カールギーの墓碑。そこには時代を超えても変わらない、リーダーの本質が刻まれているという。また会社の「組織図」を題材に、経営者として忘れてはいけない視点に落とし込むなど、「ピーターとカズオ」のエピソードは興味深い。

 89歳となった今も精力的な活動を続け、日本の未来のために発信し続けている野田氏。力強さと柔軟さを兼ね備えた思考、弁舌にふれると、やさしく背中を押されるような感覚になるのではないだろうか。

 動画提供/株式会社矢動丸プロジェクト