外来種の「侵略本能」を活かした新しい環境保護の手法とは?

 外来種と言えば、琵琶湖の在来種を脅かすブルーギルやブラックバスが脳裏に浮かぶ。いかにして駆除するか、心ない放流を食い止めるか。獰猛な外来種から琵琶湖の自然を守れ。確かにそうだと思う反面(因みに、僕は琵琶湖の外来種の駆除にはずっと賛成している)、何か心にひっかかるものをずっと感じていた。

 本書『外来種は本当に悪者か?』は、この問題に正面から挑んだ力作である。

「手つかずの自然」など
地球上のどこにもない

 冒頭、南大西洋・アセンション島の鬱蒼とした雲霧林(グリーン山)が紹介される。原始の状態が残っていると考えた著者の推測は完全にはずれた。ダーウィンが訪れたときは丸裸の島で人間が持ち込んだ外来種が島を緑に変えたのである。

 孤島の生態系は外来種の絶好のカモだという思い込みには根強いものがあるが、島嶼グループを対象にした調査では在来種に重大な影響を及ぼしたものはほんのひと握りで、ほとんどの外来種は多様性を高め生態系を豊かにしていたのである。著者は、オーストラリア、ヴィクトリア湖、エリー湖などの実例を丹念に検証し、人間が破壊した環境に外来種が入り込み、むしろ自然の回復を手助けしていると論じる。

「手つかずの自然」は地球上どこにもない。アマゾン川の両岸に広がる熱帯雨林は何百万年前から変わっていないのではなく、旧大陸から持ち込まれた病原菌によって新大陸の住民が死滅したので森林が復活したのだ。アフリカでもヨーロッパ人が牛疫ウイルスを持ち込み牛が大量に死滅したことによって、灌木が茂り野生動物が蘇ったのである。

 著者は外来種悪玉論からの改宗と周回遅れの環境保護運動に警鐘を鳴らす。外来種被害のデータがいかに杜撰であるか、執拗に数字を追っていく。この徹底した数字へのこだわりが本書の説得力を高めている。