スマートフォンという新たな製品分野を開拓してから来年で10年。iPhone頼みの成長神話が崩れ始めた今、アップルは物語を紡ぐ新たな収益の柱を果たして見つけることができるか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 中村正毅)

「ミックスシグナルの状況で、われわれも今後の販売動向を読むのにかなり苦労している」

 米アップルにiPhoneの部品を供給する日本企業の役員は、そう話し不安を隠さない。

 9月に発売した「iPhone7」シリーズの売れ行きをめぐって、世界で好調と不調のサインが入り乱れているからだ。

 どの情報を基にして、部品の生産・供給をコントロールするか判断に迷っているわけだが、サプライヤーが殊更に神経質になっているのには、理由がある。

 それは、昨冬のiPhoneの減産によるトラウマだ。

 アップルは、6sシリーズの発売から2カ月間前後は「もっとくれ、もっとくれと供給が間に合わないほどの注文を入れてきた。よほど好調とみて、多めに原材料を仕入れた途端に、前年比3割の減産要請がきた」(部品会社の幹部)という。

「読みが甘い」と投資家などから非難されるサプライヤーにとっては悲惨な状況で、頭を抱えるしかなかったが、そうした事態に一番焦りを感じていたのは、ほかならぬアップルだろう。

 2016年1~3月期に、6sの販売不調によって、実に13年ぶりに減収に陥り、補完するかのように3月末に「iPhone SE」を投入したものの、4~6月期も減収減益となってしまったからだ。特に、世界最大の市場となる中国でのシェア低下が響いているのが実情だ(図(2))。

 アップルの財務諸表を見ると、同社がいかにiPhoneという単体の製品に、強く依存した収益構造になっているかがよく分かる。

 15年度の決算(図(1))を見ると、2337億ドル(約24兆円)の連結売上高のうち、66%(1550億ドル、約16兆円)をiPhoneだけで稼ぎ出している(図(3))。

 アップルがiPhoneを投入したのは、07年。5年前に40%に満たなかった「依存度」は、iPhoneが世界で年間2億3121万台も売れる製品に育ったことで、ぐっと高まったわけだ。

 6266億ドル(約64兆円)という世界最大の時価総額を誇り、08年の金融危機による世界的な景気低迷の波を受けながらも、成長を続けてきた企業の経営基盤は、神話を紡ぎ続け、他社からあがめられるほど強固で盤石とは、決していえるものではない。