需要予測は当たらない

森岡 こう言っちゃうとなんですが、需要予測って当たらないんですよ。逆に、「当てにいくもの」じゃなくて「リスクの幅の中で制御するもの」なんです。Xという売り上げを立たせるためには、何がクリティカルな条件なのかっていうのをあぶり出さなければいけない。だから、天気予報みたいなものではない。

 需要予測を知っているのと知らないのとでは何が違うかというと、結果を出すために必要な条件が何なのかを知っているか知らないかということとほぼ等しい。成功のためには、それは結構重要なことですよね。

佐渡島 そうですね。『宇宙兄弟』のグッズ展開はヘアピンのあとに、その成功を生かして、ルームウェアを作って、それもすごく売れたんです。宇宙飛行士たちが着ているふうのルームウェアですね。

森岡 部屋着ですか。

佐渡島 そうそう。ハロウィーンのときに着られるようにと(笑)。

森岡 面白いこと考えるなぁ(笑)。

佐渡島 社員で面白い子がいるんです。

森岡 優秀なアイデアを出す子がいますね。

佐渡島 そうなんですよ。私は人生で一回もルームウェアを買ったことがないから、私からは絶対に出てこない発想で(笑)。

森岡 それは、わかんないですよね(笑)。

佐渡島 はい。販売するのはいいけれど、いくつ売れるのか、いくらが適正な値段かなどがぜんぜんわかりませんでした。

森岡 『宇宙兄弟』のファンの2〜300人のデータベース(ファンパネル)を作って管理し、傾向を把握しておくといいかもしれませんね。その『宇宙兄弟』のファンの人たち300人に商品テストをしていったら、200くらい票が回収できれば、そこそこのベンチマーキングのデータが作れるはずです。

佐渡島 あぁ、そうなんですね。そういう意味で言うと、いま『宇宙兄弟』で、LINEのフォロワーが、アクティブで10万人くらいいるんです。ここに質問すると、4万人くらい返ってくるんですよ。メルマガにも熱いファンが1万人以上いる。だから、この質問を正しく作れば、精緻なデータが取れるかもしれないですね。

森岡 そうですね。

 ただ、一般的に質問に答える人は、質問者を喜ばせようとするんです。なので、「買います!絶対買います!」って、「ほんとかよ!」という流れにもなりがちで(笑)。それを踏まえた上で、聞かなければいけない点は2つある。

【森岡毅×佐渡島庸平】ユニバーサル・スタジオ・ジャパンをV字回復させたスゴ腕マーケターと「マーケティング」について語り合った【第3回】『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門』(森岡毅/KADOKAWA)

 ひとつは、絶対値としてどれだけの人が「買いたい」と言ったのかというデータ。もうひとつは、それに対してどれだけ実際の購入がされたのかということ。その差に注目するんです。そして、その差を修正するために、ベンチマークとなるデータがあればいい。そうすれば、だいたいの答えが出せます。

 USJの「ハリー・ポッター」も、似たようなステップでプロジェクトが動きました。データ分析の段階で200万人はいきそうだっていうのが見えたんです。でも、ここで重要なのは、「いけそうだ」という可能性が見えたという話ではなくて「200万人行くためには、AとBとCが満たされなければならないということがわかった」ということなんです。実現できる根拠を、「AとBとCが実現できるならば、200万人という目標を達成できますよ」だから「私に全部投資してくれ!」と主張するわけです(笑)。

佐渡島 売上が800億円のときに450億の投資したとういのが、カッコいいなぁ。

森岡 でもね、私はたしかに、サラリーマンとしてはかなりのことをやれたかなと思うんですよ。しかし、やっぱり私は、自分の自宅を担保に入れて、勝負はしていないんですよ。あくまで、雇われている身分。だから実は、リスクなんかないんですよ。

 僕が取ったリスクって、最大でもクビになるくらい。あと、私のマーケットの評価が下がるくらい。誰も私のことを殺しに来るわけではないんです。人生と自分の存在すべてをかけて、作品を描いているクリエイターのほうがよっぽどリスクを抱えている。よくよく考えたら、「大きな組織にいる人間が、何のリスク抱えているんですか?」って、やっぱり思うんですね。

(明日に続きます)