経営×統計学

西内啓氏が特別指導!ビジネスに勝つ統計学(1)

 翌朝、深夜残業の疲れも見せず、真板は朝イチで未来にクロス集計の結果を持っていく。「未来さん、できましたよ! 売上高と訪問事由のクロス集計です(図3)。ざっと見た感じでは、訪問事由であまり売上高は変わらないみたいですけど……」。

 じっとクロス集計を見詰める未来。「慌てちゃだめよ、だめだめ。このクロス集計では売上高が“合計額”になってる。これじゃ何十回も訪問して稼いだ売り上げと、数回の訪問で稼いだ売り上げがごっちゃになっちゃう」。

 「あ、そうか! 訪問1回当たりの“平均額”で比べればいいんですね! もう1回やり直します!」。どこまでも素直な真板は、めげずに再び作業を進める。

 「できました! こ、これは!」。新たに出た結果(図4)に目を見張る真板。

 「さっきのクロス集計と比べてご覧なさい。飛び込みの営業がいかに効率が悪いか、よく分かるでしょ。分析にどのデータを使うかで、結果はこんなにも違うのよ」

 「ちょっと堂下部長に報告してきます!」。張り切る真板だったが、またもや未来のだめ出しが……。

 「そんなんじゃだめよ。売上高を左右する要因は訪問事由だけじゃないかもしれないでしょ。もっといろいろな角度から分析してみないと」

 「そ、そんな……」。がくぜんとする真板。「今度は何と何を比較すればいいんでしょうか。明日には取締役会でプレゼンしなきゃいけないのに、こんなことやってたら間に合わない。まいったなあ」

 途方に暮れる真板だったが、未来にはこれも想定済み。落ち着き払って次のステップへと真板を導く。「実はね、あれこれと仮説を立ててクロス集計をしてデータを比較検討することは、時間の無駄なの。一昔前はコンピュータの処理能力が限られていたから、仮説を立てて比較するデータを選ぶ必要があった。でも今のパソコンの処理能力をもってすれば、売上高を左右する複数のデータの関連性を同時に比較する『重回帰分析』が、それこそあっという間にできちゃうんだから」。

 「じゅうかいき何とか、って……」。いきなり飛び出した専門用語に、かなり腰が引けた真板だったが、残された時間はあと1日。やるしかない。「分かりました! 未来さん、そのじゅうかいき何とかっていうのを教えてください」。

 ふふふ、なかなかいい根性してるわ。熱心な「生徒」に向かって、未来は重回帰分析の説明を始めた(図5)。

 「さっきのクロス集計で、訪問事由と平均の売上高の間には何らかの関連がありそうだというのは分かったわよね。ただ、ほかにも売上高に影響を及ぼす要素があるかもしれない。重回帰分析を使えば、どんな要素が売上高に影響を及ぼすのかを、一つ一つクロス集計しなくてもいっぺんに調べることができるのよ

 目を白黒させる真板。未来の説明では具体的なイメージが湧かないようだ。

 「ちょっと説明を端折り過ぎたかな。案ずるより産むがやすし。実際にそのデータで重回帰分析してみて」

 「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。いきなりやってみてって言われても……」

 仕方がない、「奥の手」を使うか。「大丈夫、ちゃんと教えてくれるすごい助っ人を呼ぶから」。未来はそう言うと誰かに電話し始める。

 「もしもし、西内くん? 私、未来よ。ちょっと手伝ってほしいことがあるの。今日これから、体空いてる?」

「経営×統計学」



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