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ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一

ブラジャー大量生産を支えた
伝説の女性社員

北 康利 [作家]
【第29回】 2016年10月26日
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無料奉仕の技術指導

 内外雑貨で渡辺に羽二重を売ってもらうとき、幸一はいつも一反だけしか買っていかなかった。

 “反物”という言葉があるように、一反は一人の着物を作る分の布地である。在庫は何千反あるし、こんなに少ない量を買いに来る人間は滅多にいない。

 「一反だけなんてじゃまくさいなぁ~」

 と渡辺が文句を言っても、

 「金ないもん」

 と悪びれることなく答える。

 格好をつけようとするところのない幸一の態度が、渡辺には好ましく感じられた。

 一反ずつ買っていった代金も結局はツケである。

 「そう言えばあのときの代金全部もらったやろか……」

 インタビューの時、渡辺はそう言って笑っていた。

 「はじめは男前やと思ったんです。ところがよく見てみると、ズボンのなかにお箸が通っているような細い男でした。こんな細い体をして、これだけ仕事をして、体が参ってしまうのに、アホやな、この人と思いました」(『ワコール50年史「ひと」』)

 そのうち幸一は内外雑貨の生産体制に興味を持ちはじめた。工場はいろいろ知っているが、ここはほかとは比べものにならない大量生産体制を確立している。なおかつ、それを指揮しているのが、いつも彼に羽二重を売ってくれている渡辺らしいのだ。

 ある日、だめもとで彼女にこう誘ってみた。

 「うちの工場をちょっと見てくれへんか」

 「ええよ」

 ふたつ返事である。

 「でもこっちの仕事終わってからやで」

 こうして幸一は、彼女の仕事が終わるのを待って自転車で迎えに行き、技術指導を仰ぎはじめた。

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北 康利 [作家]

きた・やすとし/昭和35年12月24日愛知県名古屋市生まれ、東京大学法学部卒業後、富士銀行入行。資産証券化の専門家として富士証券投資戦略部長、みずほ証券財務開発部長等を歴任。平成20年6月末でみずほ証券退職。本格的に作家活動に入る。“100年経営の会”顧問。松下政経塾講師。著書に『白洲次郎 占領を背負った男』(第14回山本七平賞)、『福沢諭吉 国を支えて国を頼らず』、『吉田茂ポピュリズムに背を向けて』(以上、講談社)、『陰徳を積む 銀行王・安田善次郎伝』(新潮社)、『西郷隆盛命もいらず、名もいらず』(WAC)、『松下幸之助 経営の神様とよばれた男』(PHP研究所)などがある。最新刊は『佐治敬三と開高健最強のふたり』(講談社)。


ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一

ブラジャー。この華やかな商品に一生を捧げた男がいた。戦後京都を代表するベンチャー企業「ワコール」を創業した塚本幸一である。インパール作戦の生き残りという壮絶な戦争体験を持つ彼は、いかにして女性用下着に出会い、その未開市場を開拓していったのか。ベンチャースピリット溢れるその豪快華麗な生涯を、いま最も注目される評伝作家・北康利が描きだす!

「ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一」

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