マッキンゼーがマッキンゼーである理由とは?

瀧本 だからこそ「まあ、このへんでいいんじゃない?」というブレーキがいっさい働かない。とことんまで問い詰めるし、考え尽くす。正直な話、クライアントの顧客満足度を高めることって、そんなにむずかしくないんですよ。

山梨 どういうことですか?

瀧本 つまり、顧客の期待値を下げておけば「ほどほどの成果」でも満足してもらえるんですから。

山梨 ははははは。まあ、そういうコンサルタントもいるでしょうね。

マッキンゼーの人は「何」がすごいのか?山梨広一(やまなし・ひろかず)
1954年東京生まれ。東京大学経済学部卒業、スタンフォード大学経営大学院(経営学修士)修了。富士写真フイルムを経て、90年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。95年からパートナー、2003年からシニアパートナー。小売業、消費財メーカーおよびその他業界の企業の戦略構築や組織変革、マーケティング、オペレーション改革など、マッキンゼー日本支社において最も豊富なコンサルティング経験を有する。2010年から2014年まで、東京大学工学部大学院TMI(技術経営戦略学専攻)で「企業戦略論」の講座を指導、また同大EMPにて「消費論」の講義を行っている。2014年、マッキンゼー退社後、イオン株式会社執行役を経て特別顧問。2016年から株式会社LIXILグループ取締役。著書に『プロヴォカティブ・シンキング 面白がる思考』、『シンプルな戦略』(以上、東洋経済新報社)、『マッキンゼー プライシング』(共著)、『マーケティング・プロフェッショナリズム』(共著、以上ダイヤモンド社)、『ニューグロース戦略』(共著、NTT出版)などがある。最新刊が『いい努力』(ダイヤモンド社)

瀧本 でも、マッキンゼーで一線級とみなされる人たちは、絶対にそれをしない。クライアントと向き合いながら、同時に自分自身のバリューを高めようと考えているから。「ほどほどの成果」でクライアントが満足しても、自分が満足できないんです。その意味では、ビジネスエリートというよりも、研究者や職人のアプローチに近い。

山梨 おかげで自己満足に見えてしまったり、オーバースペックな提案があったりという負の側面は否定しませんが、そこを無くすと強みもなくなってしまう。マッキンゼー時代の瀧本さんなんかは、とくにそうだったように思います。

瀧本 本づくりをしていると、いつも編集者さんから驚かれます。「ここまでやるんですか」「そこまで厳密に、細部までこだわるんですか」って。それはある意味、マッキンゼーでは常識的なアプローチなんです。

山梨 しかも瀧本さんのこだわりは図抜けていますから。

瀧本 もし、僕が他のコンサルティングファームに入っていたら、こういう研究者的な資質も矯正されていたかもしれません。「そこまでやらなくていい」「仕事には妥協も必要なんだ」と。

 ところがマッキンゼーには、つまらないブレーキをかける人がいないし、みんなが「もっとよくできるんじゃないか」「まだまだやれることがあるんじゃないか」と粘り続ける。

山梨 だから昔は、とんでもない長時間労働になっていた(笑)。

瀧本 まさに研究室ですよ。マッキンゼーで学んだものの大きさと異質さは、会社を離れたあとになって、より強く実感しますね。こんなアプローチで仕事に取り組んでいる人たちは、良くも悪くも圧倒的少数ですから。

山梨 そのあたりの「マッキンゼーがマッキンゼーである理由」について語るのは、なかなかむずかしいですね。ロジックツリーとかマトリクスとかってツールも、コモディティ化してるし、決して本質じゃない。ポイントは「人」ですよ。