橘玲の日々刻々 2016年10月26日

日本人が知らない日系人の「二重国籍問題」
[橘玲の日々刻々]

 民進党の代表選で浮上した蓮舫氏の国籍問題では、「日本国籍と外国籍を共に保有するのは言語道断」という話になっています。国会議員(それも日本国首相を目指す野党第一党の党首)ならそのとおりでしょうが、実は「国籍」の実態はずっと複雑です。

 第二次世界大戦後、失業問題の解決のため南米などに多くの移民が送り出されましたが、第一世代(日本生まれの両親と子どもたち)の多くは日本国籍を保持したままで現地の国籍は取得していません。その理由は日本が二重国籍を認めていないからで、国籍法11条に「日本国民は、自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う」とあるように、現地の国籍を取得すると(法的には)日本国籍を喪失してしまうのです。

 移民第一世代が「日系人」ではなく「日本人」でも、彼らの子どもの世代になると事情が変わります。日本の国籍法は「血統主義」で、日本人の父親もしくは母親から生まれた子どもが日本国民になりますが、アメリカのような「出生地主義」では国内で生まれた子どもに自動的に国籍が与えられます。しかしこれでは、出生によって外国籍を取得した日本人の子どもが日本国籍を持てなくなってしまうので、国籍を留保する届出をすることで、外国籍と日本国籍の両方を持つことができるようになっています。

 国籍法では、22歳までにいずれかの国籍を選択して二重国籍を解消することになっています。しかし日本国籍を選択し、外国の国籍を放棄する宣言をしても、「選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない」との努力義務があるだけで、外国籍を離脱しないと日本国籍を失うわけではありません。出生地主義国のなかでもフィリピンなどは、国籍を放棄する手続きそのものがありません。このため外国に暮らす日本人の二世、三世のなかには、成人後も二重国籍のままというケースは少なくないのです。

 外国に住む日本人/日系人が二重国籍になるのは、新興国よりも日本のパスポートの方がはるかに旅行の自由度が高い一方で、現地の国籍を持つことで税金や社会保障などで有利な扱いを受けられるからです。

 現地の日本大使館もこうした事情はわかっていますが、国籍法の趣旨に則って外国籍の離脱を求めるようなことはしていません。大使館の重要な役割のひとつに現地の日本人/日系人社会との親睦を深めることがありますが、「外国籍を捨てろ」と迫れば強い反発を受け、日本国籍を放棄させれば現地の日本人社会を破壊するだけで、なにひとついいことはないのです。

 多くの日本人は、日本国内で日本人の両親から生まれていますから、「国籍はひとつ」という原則を当たり前のように受け入れています。しかしひとたび周縁(海外)に目をやれば、日本人の二重国籍は珍しいことではないのです。

 「国籍」は特別なものではなく、国際社会においてどの国に所属するかのたんなる指標に過ぎません。しかし「中心」しか知らないと、複数の国籍を使い分けるのが当たり前という「周縁」の実態が見えなくなってしまうようです。

『週刊プレイボーイ』2016年10月17日発売号に掲載

 

橘 玲(たちばな あきら)

 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』(ダイヤモンド社)など。中国人の考え方、反日、歴史問題、不動産バブルなど「中国という大問題」に切り込んだ『橘玲の中国私論』が絶賛発売中。近刊『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)が30万部のベストセラーに。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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