緊張感をパフォーマンスに変えられる人の脳内では、何が起きているのか?中西哲生(なかにし・てつお)スポーツジャーナリスト、元プロサッカー選手。1969年愛知県生まれ。同志社大学経済学部卒業。Jリーガーとして、名古屋グランパスエイト、川崎フロンターレで活躍。2000年末をもって現役を引退。現在はスポーツジャーナリストとして「サンデーモーニング」(TBS)、「Get Sports」(テレビ朝日)でコメンテーターを務めるほか、「中西哲生のクロノス」(TOKYO FM)でパーソナリティを務めている

【久賀谷】どのメディアもファンも、選手ですらも当たり前に使っている「決定力不足」という言葉に疑問を呈し、「『決定力不足』とは何なのかを論理的に突き詰めないと日本のサッカーは進化しないんだ」と。私は決してサッカーに詳しいわけではありませんが、こういう視点で語っている人は、中西さん以外にはあまりいらっしゃらないのでは?

中西】そうかもしれません。ただ、このツイートはかなり叩かれました(笑)。僕は印象論だけで話し合っても、何の議論にもならないし、進展しない。「決定力とは何か」と「何が不足しているのか」とを分けて、突き詰めて考えなければいけないんです。

「決定力とは、単に得点を決める力のこと、個人のことだろう」と思われるかもしれませんが、それは違います。得点を決めるとは、シュートを打つ選手がどんな体勢でボールを受け、どんなフォームでボールを蹴ったときに決まるのか。同じような状況でシュートを放っても、ゴールが決まるときと決まらないときがあるのなら、それはどこが違うのか。徹底的に突き詰めなければならないんです。すると「決定力」という言葉ではあいまいすぎる。

僕は「言葉が論理をつくっていく」と考えています。「言語化」が「論理化」につながり、そこで初めて、「再現性を高める」ための練習ができる。つまり、スポーツには論理が必要なんです。

「リラックスした集中」と
「バランスのとれたアドレナリン」

中西】僕がこの本でまず注目したのが「扁桃体ハイジャック」に関する部分です。不安とか恐れみたいなものが過度に蓄積すると、脳は扁桃体にハイジャックされたようになってしまう。そこで通常は、こうした緊張状態を解除するために前頭葉が扁桃体を「抑え込む」メカニズムがある、と。本能という「下方の脳」が司るものを「上方の脳」が抑制しているわけですね。サッカーをはじめ、スポーツ選手にとっても、不安とか恐怖とどう戦うかというのは重要なポイントです。

久賀谷】はい、その対立は「理性脳」と「動物脳」との対立とも言えると思います。緊張しているけど、なぜかいいパフォーマンスが上げられるときってありますよね?そのとき脳の中で何が起こっているかというと、じつは理性脳が動物脳を抑え込んでいるわけではないんです。
むしろ、両者が調和するような脳状態が実現している。そして、マインドフルネスというのは、そうした2つの脳の「並列・共存状態」をつくっているのに役立つんですよね。これもあえて言語化すれば、「リラックスした集中」あるいは「バランスのとれたアドレナリン」といったところでしょうか。

緊張感をパフォーマンスに変えられる人の脳内では、何が起きているのか?

中西】素晴らしい表現、言語化です(笑)。どちらの言葉にも惹かれます。まさにアスリートが最も求めている状態です。扁桃体を前頭葉が抑えつけていてはダメで、むしろ両者にハーモニーが必要なんですね。

久賀谷】わかりやすさのためにかなり図式化してはいますが、この点については科学的なエビデンスがかなり集まっているんですよ。スポーツの世界で言う「ゾーン」、より一般的には「フロー」と言われる状況下では、デフォルト・モード・ネットワークと呼ばれる脳回路の一部である後帯状皮質の活性の変化とともに、先ほど言った「理性脳」と「動物脳」の並列・共存ができていることが望まれます。マインドフルネスはそういった脳の状態をつくり上げていくのです。緊張が適度に保たれ、かつ、集中のための脳もしっかり働いている状態です。

Brewer, Judson A., et al. "Meditation experience is associated with differences in default mode network activity and connectivity." Proceedings of the National Academy of Sciences 108.50 (2011): 20254-20259.