>>(上)より続く

 慰謝料の肩代わり(法律的には「債務引受」といいます)には、いくつか種類があります。まず「免責的債務引受」ですが、これは慰謝料の支払い義務が、完全に恵さんから彼へ移るので安心です。ただ、免責的債務引受には請求者(この場合は彼の妻)の同意が必要で、彼の妻に秀彦さんがアプローチしたところで、火に油を注ぐだけなので、妻を説得するのは不可能でしょう。

 次の「履行引受」ですが、これは妻の同意は不要なので、今回は履行引受を使うのが適切です。履行引受は免責的債務引受と違い、慰謝料の支払い義務が恵さんから彼へ移ることはなく、恵さんには支払い義務が残ります。

 ただし、履行引受には妻が慰謝料を請求していたとき、恵さんが彼に対して「慰謝料を代わりに支払うよう」請求するのではなく、いったん恵さんが妻へ慰謝料を支払い、後日、恵さんが男性に対して「妻に支払った慰謝料の分を返すよう」請求することができる効力があります。恵さんがいったん立て替えるかどうかの違いですが、結局のところ、立て替えた慰謝料を男性が恵さんへ返さなければならないので、結果は同じです。

「慰謝料請求されたらかわいそうだから、それは全額自分が負担するよ」

 恵さんのLINEにはそんな内容が残されていたのです。 「万が一、彼の妻が恵さんに対して慰謝料を請求してきても、恵さんは慰謝料を支払う必要はなく、彼が恵さんの慰謝料を立て替えるつもりがある」という意味に読めるでしょう。

娘に代わって父親が直談判に
不倫男は「ただの遊び」と悪びれず

「娘の幸せ」を切に願っていた秀彦さん夫婦にとって、不倫や婚約解消、そして慰謝料という言葉は寝耳に水。さすがの秀彦さんも何をどうして良いものか…困り果てていたのですが、 私は見るに見かねて、「固定電話から彼の携帯に電話をするよう」促したのです。

 前述の通り、恵さんの番号はすでに着信拒否されていましたが、秀彦さんは自宅の固定電話から発信したので、彼はうっかり電話に出てしまったそう。見知らぬ番号からかかってきた電話の主が彼女の父親で、彼もさぞかし驚いたことでしょう。

 秀彦さんは電話口で「自分が何を仕出かしたのか分かっているのか!2人きりで話をしようじゃないか。さもなければ、お宅に訪ねていかないといけないよ!!」と投げかけ「男同士の話し合い」の場を設けようとしたそうです。

「『どうせ口だけだろう。本当に乗り込んでくるわけがない』と甘く見られているかもしれないので、あまり期待しないでください」と、私はフェイドアウトされる可能性も示唆しておいたのですが、秀彦さんは何とか彼を喫茶店の個室に呼び出すことができたのです。

「うちの娘にも悪いところはあったかもしれない。妻子の存在を知ったら縁を切るべきだったのに、ずるずると続けてしまったのだから。しかし元を正せば、結婚しているのに婚活サイトに登録した君が一番悪いじゃないのか?君が不倫目的でサイトを利用しなければ、こんなことにはならなかったのだから、君の妻からうちの娘を守るのは当然なんじゃないか?」