→答えは、 「Pepper」は何をあきらめたことで、<br />成功を果たしたのか?拡大画像表示 です。

重ねる技術:
「あれもこれも」から、「あれかこれか」

 捨てることは、とても難しいです。今まで投資した資金や時間を考えてズルズルと続けてしまう「サンクコスト(埋没費用)」の問題や、もしかしたら別の打ち手もいいのではないかという思いなどが絡まって、あれもこれもとなりがちです。

 こうした心理的な問題で正しい判断をゆがめることをいかに防ぐかは、私たちビジネスパーソンの永遠の課題です。私も会社を経営してますが、「あれもやりたい、これもやりたい」と風呂敷を広げてしまうと、いくらリソースがあっても足りないことを痛感しています。

 リーダーの役割は、「何をやるのか、何をやらないのか」を決めることです。そのためには、何の問題を解決するために事業を行っているのかを明らかにし、フォーカスすることが重要です。

 たとえば、サウスウエスト航空は低価格での運航というゴールのために不必要なことをすべて捨てました。他の航空会社が路線を拡大するなか、サウスウエスト航空は、2都市間のみをつなぐ「ポイント・トゥ・ポイント」路線に焦点を絞りました。さらに座席指定もなくし、機内食もなくしたのです。

 一方、サウスウエスト航空の成功に見習ったコンチネンタル航空も同様のサービスを始めましたが、通常路線も並行して運航していたのでコストカットがうまくできず、自ら厳しい価格競争に巻き込まれてしまいました。

 決めるということは、何かを捨てるということです。「あれもこれも」では、力が分散されてしまいます。「あれかこれか」を決めて、力を集中させましょう。

企業の強み・思い:
普通の人が普通にロボットと暮らす世界にしたい

 ソフトバンクは、Pepperの「バッテリーの持ち」と「二足歩行の安全性」という2つの問題に直面していました。二足歩行を優先すると、バッテリーが1時間程度しか持たなくなってしまいます。デモンストレーション用のロボットであればいいですが、1時間ごとに充電するロボットは家庭用としては現実的ではありません。

 また修理にも時間と費用がかさんでしまうので、一般の人が購入しづらくなってしまいます。目指すべき方向性である、普通の人が普通にロボットと暮らす世界とは離れていってしまいます。そこで、ソフトバンクはあの決断をしたのです。

生活者の本音:
話し相手が欲しい、自分の存在を確かめたい

 私たちはロボットにもペットにも、機能性だけを求めているわけではありません。ソニーが発売したAIBOにいたっては、世話をしたり、かまってあげたりする必要がありました。利便性だけで評価したら、ロボットなんかよりよっぽどスマホのほうが便利です。

 だけど、人はなぜコミュニケーションロボットに憧れ、世話のかかるペットを飼うのか。それは、「子どもが巣立った家で、ちょっと話し相手が欲しいなあと思う寂しさ」や「自分を必要としていてくれる存在がいることで、自分自身の存在を確かめたい」という気持ちがあるからです。

重なりの発見:
二足歩行より長時間のコミュニケーションができるように

 初めてPepperを見たとき、「なんだ、二足歩行じゃないのか」とちょっと残念に思ったことを覚えています。他の多くの人型ロボットと違い、Pepperが「人型」なのは上半身のデザインだけです。

 二足歩行といえば、ロボット開発における技術の見せどころであり、多くの企業がいかに人間らしい、スムーズな歩行ができるかを追求してきました。

 しかし、Pepperは、「人によりそうロボット」として、家庭で使えるコミュニケーションロボットを目指していました。ゴールがクリアだったため、歩けることよりも、バッテリーの持ちを優先し、人型ロボットの常識であった「二足歩行」をあきらめるという決断ができたのです。

 目指したのは、ロボットとしての完全性ではなく、生活によって性格も変わる生物らしさだったのです。

 ソフトバンクの孫正義社長は、「よく可愛がり、褒めたりする家庭のペッパーは明るく育つ。あまり話しかけず、放っておく家庭では寂しがり、憂鬱な性格のペッパーになる」と語っています。


参考文献
・「2代目ペッパー、家庭向けは“ほぼ別人”だった」、東洋経済オンライン、2015年6月23日