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特別リポート:先代と違うフランシスコ法王の改革マネジメント

2016年11月1日

Philip Pullella

[バチカン市 26日 ロイター] - ローマ法王フランシスコの姿を今月テレビで観ていたアルバニア出身のエルネスト・シモーニ神父(88)は驚いた。何と法王が自分の名を口にしたのだ。

ローマカトリックの実直な聖職者、白髪のシモーニ神父は、アルバニアで共産党独裁が続くあいだ、多年にわたって投獄されていた。そのシモーニ神父の枢機卿就任を、法王が発表していた。

シモーニ神父だけでなく、法王が同時に発表した他の16人の新枢機卿にとっても、自分がこの誉れ高い地位に昇格することを聞いたのは、これが初めてだった。

 「自分の目も耳も信じられなかった」と、シモーニ神父はアルバニアでロイターに語った。「法王が口にされても、信じられなかった。『別のエルネストのことを言っているのかな』と独り言をつぶやいてしまった」

だが、もっと重要なことがある。10月9日に数千人もの巡礼者の前でこの決定を発表するまで、法王はその秘密をバチカン聖職者の序列組織全体から隠しおおせたという点だ。

このエピソードは、フランシスコ法王が2013年に就任して以来、独自のマネジメントスタイルを発揮して、カトリック教会改革を進めていることを物語っている。進歩的なアジェンダを推進しようとするとき、保守的な抵抗を退け、教会がこれを歓迎するよう、法王は注意深く、自分のカードを伏せている。

10数人の現旧バチカン当局者や側近へのインタビューを通じて、12月に80歳を迎えるイエズス会士であるフランシスコ法王が、自分と外界を隔てる障害を回避しようとする姿が浮かび上がってくる。彼は自分の黒いブリーフケースを持ち歩き、自分の意志で課題を設定し、電話も自分で直接かけることが多い。

対照的に、先代のベネディクト16世、先々代のヨハネ・パウロ2世は、「法王庁」と呼ばれるバチカン官僚組織と緊密な連携を保っていた。

フランシスコ法王のアプローチの背景には、2013年に彼を選出した世界中の枢機卿から委ねられた法王庁の刷新という任務がある。

過去数十年にわたり、バチカン市の行政機構には、カトリック教会のなかでも最も正統的な聖職者たちが集まってきていた。その理由の一端には、非常に保守的だった2人の前任者が自らの周囲に集めた副官たちの存在がある。

結果的にフランシスコ法王は、12億人の信者を抱えるカトリック教会がこれまで疎外感を味わってきた同性愛者や離婚経験者といった人々を受け入れるには、法王庁への根回し抜きで何らかの決定を下すことも含め、ローマ法王庁の力を削いでいくしかない、と信じている。

このアプローチによって法王は、保守的な司教たちの同意を得ずに、カトリック教徒が婚姻無効の宣告を受ける手続を簡易化するなど、いくつかの勝利を収めた。

なかには失敗もあった。財政問題の解決に向けて1人の枢機卿にあまりにも大きな権限を与えたため、後にその行き過ぎを抑えざるをえなくなったことはその1例である。

法王庁内部からは、現法王の決定は拙速に過ぎるという批判もあり、また透明性の向上を求める声もある。

経済省や外部諮問委員会(世界各地の枢機卿8名で構成される)など新たな組織構造を設立するという現法王の決定は、法王庁内部に分断をもたらすものであり、既存の省庁のトップに新たな人材を任命することで改革を実現することもできたはずだ、と批判する声もある。

<フィルターなし>

現法王と2人の前任者を隔てる最も顕著な違いの1つは、現法王にとって本当の側近と呼べる人物を特定することが事実上できないという点である。

ベネディクト16世とヨハネ・パウロ2世の場合は、それぞれゲオルク・ゲンスワイン大司教、スタニスワフ・ジービッシュ枢機卿という個人秘書が常に法王の傍らにいて、彼ら自身も有名人となり、法王に接近しようとする人を選別する強力な「ゲートキーパー(門番)」役を果たしていた。

対照的に、法王フランシスコの2人の聖職者秘書、アルゼンチン出身のFabian Pedacchio Leaniz神父とエジプト出身のYoannis Lahzi Gaid神父については、その素性を知る人は少ない。どちらもバチカンでは非常勤職であり、法王とともに人前に出たり移動したりすることもない。

法王をよく知る人物は「彼は何のフィルターも通したくないと思っている」と語る。「来客が到着する数分前になって、秘書がその旨を法王から知らされることもある。一方の秘書には告げても他方には告げないこともある」

この人物も含め、本記事のためにインタビューした人々のほとんどは現法王と直接の接触があるが、メディアに情報を提供する権限を与えられていないため、匿名を条件に取材に応じている。

今年、アルゼンチンからの来訪者が、バチカン市国の門を守る衛兵に法王からの招きであることを告げたが、それがいたずらでないことを確認するためには、何回か電話をしなければならなかった。法王はその客を呼んだことを誰にも告げていなかったのである。

法王に近い人物によれば、法王がこのようなマネジメント手法を好むのは、それによって格式張った連絡経路を迂回できること、そして、過去の法王の場合のように、誰かが必要不可欠な人材になることを避けることができるからだという。

<「愉快な破壊」>

フランシスコ法王は規則を破るのが好きで、そのショックが収まった頃に、規則を変更してしまう。選出されてから2週間後、これまで男性に限定されていた典礼の1つに女性を参加させた。後日、法王はその規則を全世界で公式に変更することを命じた。

法王補佐官の1人が汚職と縁故主義を暴露する文書を漏えいしたことで逮捕されるなど、バチカンは現代における最大の混乱期を迎えていたが、2013年2月、ベネディクト16世の突然の退位によって、その混乱はピークを迎えた。

フランシスコ法王は、相次ぐスキャンダルの重みに耐えかねてベネディクト16世の体制が崩れていくのを遠くから見守っていた。

法王に選出された後、彼は信頼できる人々を、自分の目や耳として働けるよう、バチカン各省庁の中・下級職員として任命した、たとえばアルゼンチン出身の秘書であるPedacchio神父は、司教の任命を担当する省庁でも働いている。

法王が暮らすバチカンの宿舎を運営するイタリア出身のバティスタ・マリオ・サルバトーレ・リッカ司祭は、バチカン銀行において、枢機卿による監督委員会と取締役会をつなぐ連絡役としての地位を与えられている。

 「法王は時折、『将軍たちが何を言おうが気にしない。中尉たちに直接指示して、あの丘を奪取する』というスタイルの指揮官のように思える」と1人の関係者は言う。この関係者は、「愉快な破壊」という表現を使って、法王が非効率な官僚機構を混乱させるのを楽しんでいる様子を語った。

<第一印象を重視>

取材した複数の人々からは、フランシスコ法王が、相手について感じた直感的な印象を重視しているとの指摘があった。誰かを気に入ると欠点には目をつぶるが、気に入らなかった場合にはその第一印象を覆すことは難しい、と彼らは言う。

フランシスコ法王は、2013年に会ったオーストラリア出身のジョージ・ペル枢機卿に好印象を抱いていた。その年のコンクラーベ(法王選挙)の前に枢機卿たちが開いた複数の会合のなかで、オーストラリアン・フットボールの元選手であるペル枢機卿は、その背の上背と肩幅だけでなく、財政処理能力の高さで異色を放っていた。

選出から数カ月後、バチカンの財政スキャンダル解消を望んだフランシスコ法王は、ペル枢機卿をローマに呼び、新設した経済省の長官に任命した。

当初はペル枢機卿に広範な権限を与えていたフランシスコ法王だが、ペル枢機卿の態度が高圧的であり、イタリア出身者中心の法王庁を見下す態度をとっているという他省庁からの訴えを受けて、その後は大幅に彼の権限を縮小した。

オーストラリア時代の性的虐待の容疑もバチカンにおけるペル枢機卿の立場を弱めた。ペル枢機卿は容疑を否定しており、フランシスコ法王は、オーストラリアでの調査が終わるまでは判断を保留すると述べている。

もう1つの物議を醸したフランシスコ法王による人事としては、当時32歳のイタリア人広報専門家フランチェスカ・シャウキ氏を、改革に関する諮問委員会のメンバーに任命したことだ。昨年7月8日、バチカン裁判所は不都合な内容の内部文書をジャーナリストに漏えいしたとして、シャウキ氏に有罪を宣告した。

内部からは、ペル枢機卿やシャウキ氏の事件は、フランシスコ法王の決断が性急すぎる例だという声が上がっている。

フランシスコ法王は健康状態が良好であるにもかかわらず、自分に残された時間はほとんどなく、多くの仕事をやらなければならないと感じている、と彼らはいう。恐らくこれが、いくつかの決定を急いで下している理由なのだろう、と。

法王は、独断専行でやっていくというシグナルを送るのを楽しんでいるように見える。

法王が空路での移動に際してメディアの取材に応じる場合、前任者たちの場合は常にバチカンの国務長官か国務長官代理が脇に付き添っていた。こうした演出は、裾の長い白い法衣を着た法王の背後には何世紀もの歴史を持つバチカンの官僚機構が控えていることを示唆していた。

だがフランシスコ法王のもとでは、そうした高位の聖職者たちの姿は機内での視野に入らないようにされているのだ。

(翻訳:エァクレーレン)

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