経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2016
【第78回】 2016年11月8日
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武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

星野リゾート、旅館を所有せず運営に特化した「やめる」決断の強み

【星野佳路氏×武田隆氏対談2】

個人客のマーケティング活動に集中する、旅館を所有せず運営に特化する――。星野リゾートがリゾート業界で独自のポジションを築けている背景には、「やめる」ことが得意な経営がありました。やめることによるデメリットを考えると、これまで続けていることはなかなかやめられないもの。しかし、星野氏はやめることには大きなメリットもあると語ります。連載第77回に続き、星野氏の経営哲学を詳しくうかがいます。

リスクばかりではない
「やめること」のメリット

星野佳路(ほしの・よしはる)
1960年生まれ。長野県出身。慶應義塾大学経済学部卒業後、1986年米国コーネル大学ホテル経営大学院にて経営学修士号を取得。91年1月、星野リゾートの前身である星野温泉の社長に就任。以来「リゾート運営の達人になる」というビジョンを掲げ、圧倒的非日常感を追求した滞在型リゾート「星のや」をはじめ、全国で宿泊施設、スノーリゾートを展開している

武田 前回、「界」という温泉旅館シリーズでは、個人客に振り切ったというお話がありました。こうした極端な決断をするときには、捨てなければいけないことが出てきます。普通は怖いことだと思うんです。しかし星野さんが社長になられてからの星野リゾートは、こうした意思決定をたくさんしていらっしゃいますね。

星野 私は「やめる」のが好きなんです。やめると、すっきりするでしょう。多くの方は、きっとやめたいことをたくさん抱えていらっしゃるのではないでしょうか。でも、やめないのはそこにリスクがあると感じているからだと思います。リスクは当然あります。でも、そのリスクを考えるのと同時に、やめることによるメリットも一緒にしっかり評価することも重要であると私は考えています。

武田 やめることによるメリット、ですか。

星野 はい。メリットは意外と大きいんですよ。私はやめることによって、上手くいった経験があるので、「ここぞ」というときにやめることができるようになりました。やめたことでうまくいった例を1つ紹介いたします。インターネットの普及によって、2000年頃からオンライントラベルエージェント(OTA)、いわゆるインターネット宿泊予約サイトが次々と登場しました。それにより、私たちの現場の作業が激変しました。

武田 楽天トラベル、じゃらんnet、一休、Yahoo!トラベル……確かに、以前は宿に電話して予約を取っていましたが、もはやネットで旅行の予約をとることが当たり前になりましたね。

星野 すべてのOTAに掲載したほうが、集客が上がる。そう考えて、私たちも一時期、いくつものサイトから予約を受け付けていました。でも、「界」については現在、じゃらんnetからしか予約を受け付けていません。

武田 普通に考えると、他サイトからの集客がなくなってしまうので、デメリットしかなさそうですが……。

武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア (矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリン支局、大阪支局開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、第6刷のロングセラーに。JFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


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