什器の固定、
インフラと非常用具、
避難場所を確保

 企業の地震対策はBCP(事業継続計画)の重要な一環だが、ハード面ではどのような対策が望ましいのだろう。

「耐震構造の超高層オフィスやマンションでも安心できません。直下型の地震による建物の被災以外に、超高層ビルほど、遠方の海溝型巨大地震などで発生する『長周期地震動』によって、震度は小さくても30階や40階では大きな揺れが10~20分続くこともあります。コピー機やテーブル、ピアノなどのキャスター付きの什器(じゅうき)等は揺れによって滑り人にぶつかると重大な人的被害となります。家具什器類は作り付けや固定が理想です。コピー機などはキャスターごとすっぽり入る大型トレーを床に固定すれば、滑りを減らすことができます。エレベーターの多くは停止するので、5フロアを防災ユニットとして、歩いて対応できるようにしておくべきです」

 なお、最近は「非常時に最寄り階に自動停止したあと、建物に損傷がなければ自動復旧できる機能を備えたエレベーター」も出てきている。

 落下によって火災を引き起こしやすい薬品棚や資料棚などはL字型の金具で壁に固定する、非常用電源としては発電機以外にも蓄電池方式を準備する、ビルの地中架を活用して貯水タンクを設置する、3日分程度の飲料水と食料、携帯型トイレなどは事前に従業員に配布、各自で管理させ、なくなったものは自己責任で補充しておく、といった工夫で備えられる対策は多い。

BCP要員は
2班体制にする

 次にソフト面の対策も必要だ。中林教授は、BCP要員を「オフィス近隣に住む人」「帰宅困難者など遠方に住む人」の2班体制で組むことを提案する。

「近場の従業員は、夜間や休日に非常事態が起こった際、すぐに駆けつけて安否確認やデータ保全を行ってもらう。そのため、あらかじめ自宅を会社負担で耐震化しておくなども検討課題です。一方、遠方の従業員はオフィスが震度6強でも、自宅では震度5強ということも多い。自宅が無被害で家族の安全が確認できれば、無理して帰宅させずに、BCP要員として社に残って業務してもらうのです」

 このような役割分担を設け、本人も納得のうえでBCP要員に指名しておけば、いざというときの行動も明確で、右往左往することも減るはずだ。

「安否確認は会社と従業員と家族間で必要なので、社内の同報メールに無事なら『Y』と返信するなど、安否確認の手順と連絡の順序、通信機器の操作法なども日頃からお互いに周知徹底しておくべきです。地震をはじめとする都市災害では、一部のBCP要員が他の社員や企業資産を守るのではなく、全員が自助と共助の精神で当たるべきなのです」

 日頃のちょっとした備えや心がけで、都市災害による企業の損害を大きく減らすことができる。企業が生き延びるために、日常から社員一人ひとりが「自社でできること」と、「備えは十分か」を確認しておきたい。


週刊ダイヤモンド」2011年1月22日号も併せてご参照ください
この特集の情報は2011年1月17日現在のものです