→答えは、「缶つま」は商品をそのままに<br />何を変えて売上を伸ばしたのか?拡大画像表示 です。

重ねる技術:
勝てる土俵をつくる

 どんなに得意分野でも、勝てない土俵で勝負していたら勝てません。また、激変する市場において、戦っていた土俵自体がなくなってしまうリスクも高まってきています。

 富士フイルムの事業転換は代表的なケースです。化学フィルム市場という自らがつくり上げた市場だったとしても、デジタルカメラの台頭により土俵自体がなくなってしまっては相撲が取れないと見切りをつける必要がありました。

 そこで、自社の技術を棚卸しし、写真フィルムの主原料であるコラーゲンの研究と、写真の色あせを防ぐための抗酸化技術が、美しい肌づくりに応用できることを突き止めました。そして「アスタリフトシリーズ」を皮切りに美容品、ヘルスケアにビジネスを転換しています。

 素晴らしい技術を持ち、競争優位性を持っていたとしても、土俵がなくなってしまっては戦うことすらできません。強みに特化することと同じくらい、勝てる土俵を選ぶことは重要なのです。

企業の強み・思い:
価格競争をするのではなく、缶詰の価値を高めたい

 缶つまの生みの親である食品統括部の森公一副部長は、こう言います。

「価格競争が非常に厳しく、取引先との商談で中身よりも『価格を安くしてくれ』という要望ばかりでした。今、生鮮品は流通インフラが整備され、冷凍食品やレトルトなど様々な形態の保存食品もあります。さらにコンビニや宅配サービスなどでいつでもどこでも食品が手に入る時代ですから、長期貯蔵する商品への需要もそこまで高くありません」

 常に厳しい価格競争にさらされ、成熟しきった缶詰マーケット。だからこそ「安いモノばかり売っていていいのか、缶詰そのものに何か付加価値を持たせられないか」と考えていたといいます。

 また食品卸は、利益率が低いビジネスモデルのため、自社のリソースを最大限生かせる方法を模索していたのです。

生活者の本音:
家飲みだって、ちょっとはうまい酒の肴がほしい

「料理はしたくないけど、家でも居酒屋みたいにおいしいおつまみを手軽に味わいたい」と、酒飲みなら誰でも思いますよね。スナック菓子を買ってきてちょっと飲むぐらいでは物足りないけれど、忙しい奥さんにおつまみを作ってほしいなんて言える男性はそう多くありません。

重なりの発見:
おつまみに特化した缶詰にした

 いつまでも缶詰のおかず市場で戦い続けていたら、はごろもフーズ、マルハニチロをはじめとする大手企業との分の悪い勝負をし続けることになります。
さらにコンビニでも新鮮でおいしい食品が手に入る時代に、わざわざ保存食を買うニーズは高くありません。

 そこで国分は、ご飯用の缶詰マーケットではなく、缶詰というリソースを生かしつつ、おつまみ市場に参入したのです。どの土俵を選ぶかで、同じ技術、同じ商品だったとしても価値は違ったものになります。

「おいしい缶詰を作れる」国分の強みと、「家で手軽に安く飲みたい」という時代背景が重なった結果、成熟しきった缶詰マーケットに新たなカテゴリーが生まれたのです。

 価格も価値も、相手が変わればまったく変わります。

 主婦にとって晩ごはん用に使う鯖缶だったら100円かもしれませんが、うまい酒を飲むためのおつまみだったら300円でも安いかもしれません。

 比較する対象が居酒屋の500円のメニューであれば、300円の缶詰はお手頃なおつまみになります。

 新しいカテゴリーをつくるために国分には強いこだわりがあります。

「商品化にあたっての絶対的なルールがひとつだけあって、それはやはり“おつまみとして、お酒を飲みたくなるかどうか”です。試作品を食べて『うまい!ご飯のおかずにいいね!』だったら、缶つまとしてはボツ。もちろん、どのように食べるかはお客さまの自由ですが、私たちは基本的に『おかず?冗談じゃありません!』というスタンスですから(笑)」と、森氏は語っています。

「缶つま」は発売初年度で1億8000万円の売上を達成すると、わずか数年でおつまみ缶という市場をつくったのです。


参考文献
・「国分の大ヒット商品『缶つま』の生みの親に聞いた、誕生と成功秘話~国分株式会社」、フーズチャネル、2014年8月19日配信
・「売り上げ20億円オーバーの超絶ヒット中、高級缶詰『缶つま』シリーズの仕掛け人に秘密を訊いた!」、週プレNEWS、2014年10月3日配信