麻薬は暴力と腐敗を招き、人類にとっては古くから脅威だった。麻薬をなくすための第一歩となるのが、人びとの麻薬消費量を減らすことだ。そこで目下、南米で注目されているのが、麻薬のうち最も幅広く用いられている大麻の合法化だという。ブラジルのカルドーゾ元大統領が、麻薬との戦いの厳しい現実と新たな政策パッケージについて持論を展開する。

【特別寄稿】<br />ブラジル元大統領<br />フェルナンド・エンリケ・カルドーゾ<br />終わりなき“麻薬との戦い”の新手法<br />大麻合法化の是非を論ずるフェルナンド・エンリケ・カルドーゾ
(Fernando Henrique Cardoso)
ブラジル元大統領
1931年リオデジャネイロ生まれ。蔵相時代、インフレ抑制に手腕。95年から2期8年ブラジル大統領を務めた。現在は麻薬問題に精力的に取り組む。
PHOTO: REUTERS/AFLO

 麻薬との戦いは負け戦だった。

  2011年は、「公衆衛生」「人権」「良識(コモンセンス)」に基づく新たな麻薬対策の政策パッケージを追求するため、懲罰的なアプローチに別れを告げる年となる。これが、筆者がエルネスト・セディジョ・メキシコ前大統領、チェザル・ガリヴィア・コロンビア前大統領とともに呼びかけ人となった「麻薬と民主主義に関するラテンアメリカ委員会」における中心的な結論だった。

 私たちがこの問題に取り組むようになったのは、やむにやまれぬ理由のためだ。ラテンアメリカ地域において、麻薬取引に絡む暴力と腐敗は、民主主義に対する大きな脅威となっている。こうした危機感から私たちは、現行の政策を評価し、有効な代替案を模索することになった。証拠として、有無を言わせぬものだった──生産を抑圧し麻薬の消費を犯罪化するという禁止主義的なアプローチは、明らかに失敗に終わっている。

 30年にわたる膨大な努力を注いだ揚げ句に、あらゆる禁止政策が達成した実績といえば、栽培地域と麻薬カルテルの所在をある国から別の国へとシフトさせただけである(いわゆるバルーン効果)。ラテンアメリカは依然として世界最大のコカインおよび大麻の輸出地域である。麻薬ギャング同士の抗争で何千人もの若者が命を落としている。麻薬王は、地域社会全体を恐怖により支配している。

 私たちは、(委員会の)報告書を、一つのパラダイムシフトの呼びかけで締めくくった。麻薬に対する需要がある限り、違法な麻薬取引は続くだろう。麻薬取引の収益性は低下しない(したがってその力もそがれない)などと、失敗に終わった政策にこだわることなく、私たちは麻薬が人びとや社会にもたらす悪影響への対処に力を注ぎ、消費そのものを減らしていかなければならない。