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アングル:電通社員の過労死問題、残業規制を改革の俎上に

2016年11月12日

[東京 4日 ロイター] - 日本の一流大学を卒業し、将来有望と見られていた高橋まつりさん(当時24)は昨年4月、同国有数の広告代理店である電通<4324.T>に入社した。同社の職場文化は、激務が求めれることで知られている。

入社から9カ月後、高橋さんは飛び降り自殺した。ソーシャルメディア上では、高橋さんの過酷な労働時間や上司の嫌がらせを示唆する言葉に対する怒りが巻き起こった。

日本の厚生労働省は先月、高橋さんの自殺について、過労を原因とする労災と認定。電通社内で長時間労働がまん延しているのかどうか立ち入り調査を行った。

日本では、労働基準法第36条によって、通称「36(サブロク)協定」と呼ばれる労使協定を締結し届け出た場合には、協定で定める範囲内で1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて労働させることが可能となっている。

協定の範囲内であれば、割増賃金や時間外労働の限度は、雇い主と大抵はおとなしい労働組合の裁量にまかされている。多くの日本人の目には、高橋さんの死は、こうした現状の悲劇的な結果として映る。

こうした現行法の抜け穴が改善される可能性も出てきている。安倍晋三首相は9月、第1回「働き方改革実現会議」を開催し、広範囲に及ぶ雇用改革に着手。時間外労働に対し、企業により厳しい規制を求めることも検討の対象となっている。

 「全国過労死を考える家族の会」の寺西笑子代表は、現行法では、月45時間の上限を超える水準で時間外労働を設定することが可能だと指摘。労働組合も企業側のそうした設定に合意するため、組合にも責任があるとの見方を示した。

こうした支援団体によれば、企業は社員、特に新入社員に対し、過度の時間外労働をしばしば強要するという。

政府は先月、初となる「過労死等防止対策白書」を公表。それによると、調査対象1743社の約23%が、過去1年間で月80時間以上の残業をした社員がいたと回答した。

高橋さんの遺族側弁護士からの資料によると、高橋さんが2015年10月に行った残業時間は105時間に上り、翌月にはうつ症状を発症したと厚生労働省が認めた。

日本は2種類の過労死を正式に認めている。過労を原因とする心血管疾患による死亡と、仕事が原因で精神的ストレスによる自殺である。

2014年度における過労が原因の自殺および自殺未遂は93件で、前年度の99件から減少している。また、過労を原因とする心血管疾患による死者数も121件から96件に減少した。

塩崎恭久厚生労働相は記者団に対し、長時間労働に対する監視を強化したい考えを示し、電通については調査の結果に基づいて対処すると語った。

政府の働き方改革実現会議に詳しいある関係筋によれば、残業時間の上限を定めた新たな法律も検討される可能性があるという。

つまりそれは、労働基準法第36条を改正し、時間外労働について月45時間から80時間の間で上限を明記する可能性があることを意味すると、この関係筋は匿名で語った。

働き方改革実現会議は、来年3月までに「働き方改革実行計画」をまとめる見通しだ。

<勤勉と犠牲>

同会議では、新たな法律がそのような上限から特定の業界を免除するかどうかも議論される見込みだ。

雇用主を擁護する日本経済において、長時間労働に対する規制が検討されたとしても、反発を招かず実現することはありそうにない。

勤勉と犠牲は長らく日本の代名詞であり、社会からの強い期待が、雇用者と組合に積極的な改革を進めることを困難にさせている。

多くの場合、雇用者は雇われていることに対して深く感謝しており、たとえ条件が悪くても辞めたがらない。昇進するためには、同僚よりも長く働かなくてはならないと感じている人もいる。

近年、政府は労働関連法を改正し、労働時間の短縮を奨励しているが、このような措置をめぐっては、自主規制にあまりに頼り過ぎているとの批判も上がっている。

 「長時間労働が、若い雇用者の能力形成に必要だという意識の問題がある」と、みずほ総合研究所の主任研究員である大嶋寧子氏は指摘。「人件費が90年代から合理化されてきたので、1人当たりの負担が拡大してきた」と同氏は語る。

<生きがい>

電通が長時間労働で責任を問われたのは、高橋さんのケースが初めてではない。

最高裁は2000年、電通社員が長時間労働からうつ病となり、1991年に自殺したのは同社に責任があるとの判断を下した。

電通の石井直社長は、10月17日に社員に送った電子メールのなかで、高橋さんの自殺を受け、同社が刑事訴追を受ける可能性に直面していると説明。ロイターが入手したメールのコピーによると、同社は残業の上限時間を月70時間から65時間に引き下げるとしている。

電通はロイターに対して当局と協力していると述べ、それ以上のコメントは差し控えた。

高橋さんの遺族側弁護士は、電通を告訴するかどうかについてコメントしなかった。また、遺族は取材要請を拒否した。

高橋さんの死によって、過労死と職場における嫌がらせという難しい問題に再び注目が集まっている一方で、政策立案者は労働に関する他の課題に対処しようとしている。

東京大学を卒業し、就職してから数カ月後、高橋さんは自身の外見を男性上司からけなされること、睡眠時間がわずか2、3時間であること、日常的に週末も働いていることなどについて、ツイッターでつぶやき始めていた。

 「1日20時間とか会社にいるともはや何のために生きてるのか分からなくなって笑けてくるな」(原文ママ)と 昨年12月17日、高橋さんはツイッターでこう記している。

クリスマスの12月25日、高橋さんは社員寮から飛び降りた。

 「娘は二度と戻ってこない」。高橋さんの母親の言葉を国内メディアが先月報じた。「命より大切な仕事はない。過労死が繰り返されないよう強く希望する」

(Stanley White記者、笠井哲平記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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