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焦点:欧州襲うポピュリズムの大波、トランプ勝利と英離脱で

2016年11月14日

Noah Barkin

[ベルリン 9日 ロイター] - ドナルド・トランプ氏が米大統領選で勝利するなど夢にも思えなかった今年5月、先進国首脳会議(G7)を控えて来日した欧州連合(EU)幹部がツイッター上で「恐怖のシナリオ」をつぶやいた。

想像してみてくれ、と彼は書いた。オバマ米大統領、オランド仏大統領、キャメロン英首相、レンツィ伊首相の代わりに、富裕国クラブの集まりである来年のサミットに、トランプ氏、マリーヌ・ルペン氏、ボリス・ジョンソン氏、ベッペ・グリッロ氏が集まるとしたら──。

欧州委員会のユンケル委員長の首席補佐官を務めるマーティン・ゼルマイヤ氏が、こうつぶやいてから1カ月後、英国が国民投票でEU離脱(ブレグジット)を決定し、世界を震撼させた。

キャメロン首相は辞任し、英国民をブレグジット支持に動かしたジョンソン元ロンドン市長は外相に就任した。

そして米大統領選で共和党候補のトランプ氏が想定外の勝利を収めた今、数カ月前までは荒唐無稽と思われていたポピュリズムの大波は現実になりつつある。欧州政治に与える影響もきわめて大きくなる可能性がある。

2017年にはオランダ、フランス、ドイツ、そして恐らくはイタリアと英国でも有権者が投票に臨む。これらの選挙が、トランプ勝利とブレグジット、そしてこの2つの運動を推進した毒性の強い政治の影響を受けてしまう可能性がある。

欧州大陸のポピュリズム政党も、ブレグジットとトランプ氏勝利から得られた教訓を無駄にはしないだろう。彼らは9日のトランプ氏の勝利を、政界主流派に対するボディブローとして歓迎している。

 「政治は決定的に変わった」と語るのはオランダの極右政党、自由党のヘルト・ウィルダース党首だ。「米国で起きたことは欧州でも起きるし、オランダでも同じことだ」

フランス極右政党・国民戦線の創設者であるジャンマリー・ルペン氏も同じように勢いづいている。同党のルペン党首の父親である同氏は、「今日は米国、明日はフランスだ」とツイートした。

ドイツ外交協会(DGAP)で研究ディレクターを務めるダニエラ・シュバルツァー氏は、対立候補とメディアに対するトランプ氏の容赦のない戦術は、いまだ第2次世界大戦の記憶が残る欧州大陸において比較的自制を効かせてきた欧州ポピュリスト政党にとっての手本になっていると指摘する。

 「トランプ氏が見せたタブーの解禁、政治対立の激烈さ、攻撃性は、私たち自身の政治文化における想定範囲を拡大する可能性がある」とシュバルツァー氏は言う。

<大きな影響>

12月上旬、オーストリアで大統領選挙が行われる。自由党のホーファー党首が勝てば、1945年以降に西欧で行われた自由選挙において、初めて極右の国家元首が誕生することになる。

同じ日、イタリアではレンツィ首相が自らの進退を賭けた憲法改正の国民投票が行われる。ここでもイタリアの政治秩序がひっくり返り、グリッロ氏が率いる左派「五つ星運動」が権力の座に近づく可能性がある。

 「1つの時代が燃え尽きた」とグリッロ氏は言う。「本当のデマゴーグ(民衆扇動者)は、もはや存在しない世界に軸足を置いているメディアと知識人だ」

すでにポーランドとハンガリーでは右派ナショナリスト政権が生まれている。とはいえ、西欧諸国では、トランプ的な人物が権力を握る可能性は今のところ薄い。

欧州の議会制民主主義国では、右派から左派に至るまで、既存政党は歴史的な対立関係をいったん保留し、ポピュリスト勢力を締め出そうと手を組んでいる。

だが、シティグループで世界政治担当のチーフアナリスト、ティナ・フォーダム氏は、ブレグジットから得られた教訓は、政権に参加していない政党でも、政治論争を形成することはできる点だと指摘する。

同氏が例に挙げるのが、英国議会では1議席しか保有していない反EU派の英国独立党(UKIP)だ。「UKIPは前回の選挙で振るわなかったものの、英国政治の動態に大きな影響を与えた。ブレグジットとトランプ氏の組み合わせは選挙運動のやり方を完全に変えた」

UKIPのファラージ党首は9日、トランプ氏の勝利を「巨大なブレグジット」と称賛した。

新たな政治運動が登場するなかで、既存政党が連立を形成して団結することはますます困難になっていくだろう。

スペインでは先週、現職のラホイ首相の続投が決まったが、2回の総選挙でいずれの政党も過半数を得られなかった。有権者は、ラホイ首相の率いる保守派の国民党、伝統的なライバルである左派の社会労働党にそっぽを向き、2つの新党ポデモスとシウダダノスに流れた。

10カ月にわたる政治的空白の末、ラホイ首相が少数与党政権を率いることになったが、法案成立や、改革の実施、財政再建は難航すると見られる。

政治的脆弱性というウィルスは、来年、スペインからオランダへと伝染するかもしれない。オランダにおける世論調査では、ウィルダース氏率いる自由党がルッテ首相のリベラル派と僅差の争いを展開している。

3月の選挙後も権力の座に留まるために、ルッテ氏は、緑の党を含む一連の少数政党とともに安定性に劣る新たな連立政権を組むというオプションを考慮せざるを得なくなるかもしれない。

<重大な分岐点>

大統領制を採用しているフランスでは、極右・国民戦線のルペン党首が勝利を収める可能性は少ないように見える。

来春の大統領選挙での大本命は、政府での豊富な経験を持つ71歳の中道派、アラン・ジュッペ氏である。オランド現大統領、サルコジ前大統領が10年間にわたり失望を与えてきた後だけに、責任あるリーダーシップを切望する声を追い風にしている。

だが、ルペン氏の強さを示す兆候もある。世論調査によれば、第1回投票では彼女は他のどの政治家よりも多くの支持を勝ち取るという予想が出ているのだ。世論調査どおりに決選投票で敗れるとしても、ルペン氏の活躍は、欧州大陸の極右にとって画期的な瞬間と見なされる可能性が高い。

そうなれば、ジュッペ氏、それに保守派から出馬する彼のライバル候補が公約に掲げる改革に対抗するうえで、ルペン氏にとって強力な足場が築かれるかもしれない。

来年秋に選挙が行われるドイツでは、ナチスの暗い歴史があるため、戦後、極右政党が勢力を伸ばすことは困難だった。だが、この状況もやはり変わりつつある。

反移民政策を掲げる「ドイツのための選択肢(AfD)」はまだ創立3年だが、国政レベルでもメルケル首相率いるキリスト教民主同盟を脅かす勢力になった。キリスト教民主同盟は、移民受け入れに寛容な政策ゆえに、一連の地方選挙で打撃を被っている。

メルケル首相は早ければ来月にも4期目をめざす意向を発表する可能性があり、現時点での世論調査では、もし出馬すれば彼女が勝つとされている。

だが、戦後最も分断が進んだ状態にあるドイツにおいて、メルケル首相の影響力は低下するだろう。同首相にとって保守派の姉妹政党であるバイエルン・キリスト教社会同盟でさえ、彼女への支持を拒否しているのだ。

(翻訳:エァクレーレン)

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