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焦点:クリントン氏、なぜ白人の支持基盤は崩壊したか

2016年11月15日

[ベスレヘム(米ペンシルベニア州) 10日 ロイター] - 米大統領選の民主党候補、ヒラリー・クリントン氏をホワイトハウスに導くはずだった従来の民主党支持基盤が崩れた背景には、ペンシルベニア州ノーサンプトン郡に暮らすジム・マクアンドリューさんのような有権者が大きな鍵を握っていた。

製鋼所の従業員だったマクアンドリューさん(69)はこの半世紀、大統領選では必ず民主党候補に投票していた。だが今年は投票せずに家にいた。ノーサンプトン郡は民主党支持者が多く、ほとんどが白人の労働者階級の地域で、2008年と2012年の大統領選ではオバマ大統領を支持。しかし今年は、共和党のドナルド・トランプ候補が勝利した。

 「両候補とも大嫌いだった。だから『勝手にしろ』と言ったんだ」とマクアンドリューさんは話す。彼の妻も生涯、民主党を支持してきたが、今回は独りで投票所に行き、共和党に一票を入れたという。

 「こんなことは初めてだ」とマクアンドリューさんは語る。

ノーサンプトンのような、これまで確実に民主党を支持してきた郡をひっくり返すトランプ氏の能力は、米大統領選での同氏の勝利に貢献した。民主党の選挙戦略にとって防波堤とも言えるペンシルベニアや他の「ラストベルト(さびついた工業地帯)」と呼ばれる中西部・北東部地域で勝利するためには、それは決定的に重要であった。また、フロリダやノースカロライナといった激戦州を制する原動力にもなった。

だが、各地で熱狂的な支持を集めたトランプ氏の経済的ポピュリズムや「米国第一主義」といったメッセージのおかげ、というわけではない。

このような郡の一部でトランプ氏は勝利したものの、2012年の大統領選に出馬した共和党のミット・ロムニー候補よりも得票数ははるかに少なかった。当初の見通しによると、今回トランプ氏の得票数が約5970万票であるのに比べ、4年前に敗北したロムニー氏のそれは約6090万票と、ロムニー氏の方が約120万票多かった。

しかしクリントン氏は、民主党支持者の票をつなぎとめるため、はるかに厳しい闘いを強いられていた。一部の民主党支持者は党派を超えて、トランプ氏や無党派の候補を支持した。

また、多くが投票所に足を運ばなかった。

クリントン氏の得票数は約5990万票で、2012年のオバマ大統領が勝利したときの約6590万票より約600万票少ない。従来の民主党支持基盤でクリントン氏が票を伸ばせなかったことは、大統領選で勝者を決める「選挙人団」制度において影響を及ぼした。

クリントン氏は、ワシントンの支配階級を揺るがすことができそうにない現体制側の候補と見られていたと、フロリダ州ピネラス郡に住む退職者のマイク・スライさん(74)は語る。無党派層のスライさんは、2012年の大統領選ではオバマ氏に票を入れたが、今年はトランプ氏に入れたという。経済や医療保険など、スライさんが関心のある問題に取り組むというクリントン氏のメッセージは、心に響かなかったという。

 「ヒラリーはあまりにたくさんの問題を背負っていて、信頼されなかったのだと思う」とスライさんは言う。

<新たな連合>

主な激戦州であったフロリダ州におけるクリントン氏の敗因の1つには、かつては民主党を支持し、白人の中流あるいは労働者階級が多い地域に住むスライさんのような有権者の票を獲得することができなかったことがある。退職者に人気のピネラス郡で、トランプ氏は48%の票を獲得。一方、クリントン氏は47%だった。2012年、オバマ氏はそこで52%の票を獲得していた。

当初の見通しによると、全国的な投票率は55%超と低く、ブッシュ前大統領がゴア元副大統領に勝利した2000年の大統領選以来となる最低を記録した。オバマ氏が大統領に就任した最初の選挙では投票率は62%を超えていた。

クリントン氏は、黒人やヒスパニック系の票においてトランプ氏を上回ったが、そのような強みを多様な都市部で活用して支持連合を形成しようという同氏の努力は、白人層に強いトランプ氏にひっくり返された。一方でトランプ氏は、2012年のロムニー氏とほぼ同程度のマイノリティー票をどうにか維持した。

このようなパターンは地方だけでなく、多くの大都市郊外、とりわけラストベルトや南部においても見られた。こうした地域は、過去2回の大統領選でオバマ氏を支持している。

 「かなり基盤が物を言う選挙だったが、あるグループは他よりも投票所に有権者を向かわせることがうまかった」と、南フロリダ大学の政治学教授であるスーザン・マクマナス氏は指摘する。

ノースカロライナ州ゲイツ郡では、不法移民やイスラム社会の過激化に対する取り締まりといったトランプ氏の公約に共鳴したと、キリスト教福音主義派の牧師であるエリック・J・エアハートさん(49)は話す。

人口1万2000人の同郡では、2012年の大統領選においてオバマ氏が52%の票を獲得して勝利した。しかし今年はトランプ氏が得票率53%で同郡を制している。

<期待外れ>

かつて鉄鋼の町として栄えたペンシルベニア州ノーサンプトン郡と近隣のリーハイ郡は、同産業の衰退からは現在、回復している。

両郡にまたがるベスレヘムの古い製鋼所の周辺では、米カジノ運営大手、ラスベガス・サンズによる従業員数2400人のカジノリゾートなど、新たな開発が急速に進んでいる。

Eコマース(電子商取引)やホワイトカラーの企業、日本のオリンパスのような大手企業も同地域に移転してきた。リーハイ郡とノーサンプトン郡は、7万5000ドル(約800万円)以上の所得がある世帯の割合が州全体よりも高く、約36%に上る。

クリントン氏にとっては逃したくない地域と言えるだろうが、こうした郡に暮らす人々は、国全体と比べて、白人が多く、また高齢である。

高齢な白人層の票を支配したのはトランプ氏だった。

冒頭のマクアンドリューさんと毎週ポーカーゲームを楽しむ、かつてベスレヘムの製鋼所で働いた男性5人は、なぜクリントン氏がオバマ氏と同じように成功しなかったのかについて、それぞれ異なる見方をしている。

だが皆の意見が一致したのは、クリントン氏が説得力のあるメッセージを送ることができなかったということだ。

5人全員が生涯、民主党を支持してきたが、今回クリントン氏に票を入れたのは3人だけだった。

 「彼女(クリントン氏)はこれまで通り、あらゆることを続けていくようだった。だが、多くの人は変えなければならないことがあると思っている」と、ケン・レイデンさん(80)は語る。レイデンさんはクリントン氏に投票したが、それは主に党への忠誠心からだった。「彼女は新しいことは何も示せなかった」とレイデンさんは語った。

(Peter Eisler記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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