この10年間、アサヒビールは売上高を5%しか伸ばせなかったが、質を高めることで利益を拡大させてきた。だが、次の5年間では大幅に売上高を拡大させて成長を遂げる目標を立てた。低成長路線を取らざるをえなかった財務面での制約がはずれ、「質」だけでなく、「量」の追求が可能になってきたからだ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木 豪)

「最近、機関投資家はアサヒビール株をグロース(成長株)に分類し直すケースが増えてきた」

 アサヒで投資家対応を担当する石坂修IR室長は、自社に注がれる投資家の視線の変化を感じるという。

 成長する中国での黒字化が確実になってきたことなど、理由はさまざまだが、成長期待を背負うようになった理由は、「量」の追求に経営の舵を切ったことに集約される。要は「売上高を伸ばすことで利益を上げる」という方針だ。

 2009年12月に発表された「長期ビジョン2015」では、海外売上高比率を現在の3倍以上となる20~30%に高めることを軸にして、15年度までに現在1兆5000億円弱の売上高を2兆~2兆5000億円程度にまで拡大するという目標が掲げられた。10年3月に就任した泉谷直木社長は、M&A(買収)を主な手段として、「資金は4000億~5000億円は確保できる。市場から調達することもありうる」と財務面での懸念が薄いこと、拡大志向に転じて攻めに出る姿勢を打ち出した。

 量=売上高の追求、そのために負債拡大もいとわない──これは近年のアサヒが低成長に甘んじざるをえなかった要因が取り除かれることを意味している。

 詳細は後述するが、常に比較対象とされ、買収戦略ではアサヒに大きくリードしていたキリンビール(キリンホールディングス)は、昨年末にM&Aなどに利用予定だった発行済み株式の2.89%分の金庫株を、当面の活用が見込めないことから消却した。資産圧縮の促進、設備投資の抑制などを含めて「今後は量より質を重視」(小沢一志・キリン財務担当主査)に転換するなどアサヒと好対照な点も関心の的だ。