「安楽死」に触れた映画が増えている

日本でタブー視される「死のあり方」安楽死を扱った映画が増えていますが、海外と比べた日本の「死」のあり様とはどんなものでしょうか

「もう疲れたの」「気力がなくなって」「この世を去りたい」――。そんな言葉を家族に投げかけて、安楽死を選んだ老婦人。その老婦人の心の中に分け入り、忠実にたどった映画に感銘を受けた。

 上映中のフランス映画「92歳のパリジェンヌ」である。原題の「La Derniere Lecon」(最期の教え)が内容をよく表している。

 安楽死に触れた映画が最近増えているが、これほど安楽死そのものをテーマに、人生の終止符の打ち方を考えさせる映画はなかったように思える。

 自分で自分の死を決める安楽死は、がん末期など致命的な病が原因で選択されると言われる。だが、この映画の主人公の老婦人は、加齢に伴う心身の不調を不快と感じているに過ぎない。日常生活の細かいことが少しずつ、1人ではできなくなる。

 車の運転、丁寧な調理、整理整頓などだ。便座から立ち上がれなくなって、その間にオーブンから出た煙が部屋中に広がってしまったことも。92歳だから不思議なことではない。決定的だったのは、おねしょである。自宅に続いて入院中にも漏らしたため、すぐに看護師から紙おむつを着けられてしまう。

 以前から唱えていた安楽死を決行する気持ちが一段と高まる。本人の気持ちを知った息子と娘、孫の葛藤が巧みに描かれる。「老人特有の鬱病だから」と母親の決意を受け止められない息子。初めは反対したが、次第に母親の気持ちを理解していく娘。

 皆が人間の死に向き合う。映画は、終わりまで余計なエピソードなどは一切入らない。安楽死を選んだ当事者と家族の心だけを真正面からとらえ、正攻法でカメラが回る。

 自身の意思で、自身の人生の幕を閉じることが極めて自然な行ないであることがよく分かる。この老婦人にはモデルがいた。1997年から5年間、ミッテラン大統領の下でフランスの首相を務めたリオネル・ジョスパンの母である。作家の娘が綴った小説が原案となり映画は製作された。