ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
論語と算盤と私
【第14回】 2016年12月13日
著者・コラム紹介バックナンバー
朝倉祐介

リスクをとって起業するか、会社勤めすべきか…?
など、人生の岐路で考えるべき3つの原則

元ミクシィ社長の朝倉祐介さん初の著書『論語と算盤と私』では、会社という組織を軸に、起業期、成長期、成熟期、衰退期といったステージごとの組織の様子やそこで発揮されるべきリーダーシップ、市場との関係性などについてまとめられています。では、そうした組織や市場の中にいる「個人のあり方」はどうあるべきかーー本書で触れられている朝倉さんなりの考え方を3回に分けてご紹介します。

 「リスクをとって起業すべきか、会社勤めを続けるべきか」
 「起業するなら学生のうちが良いか、会社に勤めてからが良いか」
 ありがたいことに、知り合いの方々からこのようなご相談を受けることも少なくありません。

 どのようなキャリアを辿るべきか、あるいはどのような夢や志を立てるべきか。「キャリア」と聞くとなんだか打算にまみれた立身出世にまつわる処世術のように響きますし、「夢」や「志」という言葉も青臭くてなんともこそばゆい感がありますが、それでも個々人にとっては重大な問題です。だからこそ悩ましい。人生の岐路に立ち、“Should I stay or Should I go?”という問いを前にして、頭を抱えている方は多いことでしょう。

 こうした問いに対して万人に共通する解があるはずもありません。起業しようが会社員人生を歩もうが、人生いろいろ。他人がつべこべ言うべき類いの話ではないでしょう。「好きにすればええがな」というのが、ご相談を受けるたびに感じる正直な気持ちです。

 そもそも本気で何かをなしたいと思う強い気持ちがあるのであれば、周りの誰が何と言おうと一顧だにせず、振り切ってでも突き進むに違いありません。相談相手に止められて思いとどまるくらいの「夢」や「志」であるならば、所詮その程度のもの。それこそやらないほうがいいというものです。

 とはいえ、多くの方はそこまで強い確信を持つ一歩手前で、どうすればいいのかに思いを巡らしているのではないでしょうか。また人にはそれぞれ、人生の長い階段を上るうえでの原理原則のようなものがあるはずです。他人のそうした考えを知っておくことは、自身の身の振り方を検討するうえで、それなりの参考にはなるかもしれません。

 私自身は中学卒業後、オーストラリアに渡って競馬の騎手候補生としてトレーニングを受け、北海道で競走馬の調教助手を務めた後に東京大学に進学し、外資系の経営コンサルティングファーム、零細スタートアップ、上場IT企業と、異なる環境で働いてきました。そうしたわずかばかりの個人的な体験にひも付けつつ、自分なりの原理原則に触れてみたいと思います。

キーワードは3つ―――「動機」「選択基準」「代替案」です。

(1)動機:ポジティブもネガティブもあり!

 まず大事なのが、動機です。腹の底から「やりたい!」と思える動機があるかどうか。何はともあれ、これが一番必要です。苦しいときでも立ち戻る動機が強ければ、その思いが自分の背中を後押ししてくれるものです。

 動機のなかにも、ポジティブなものもあれば、ネガティブなものもあります。

 わが身を思い返すと、私が騎手を目指した際のポジティブな動機は、ただただ馬が好きだったこと、乗馬やスポーツとしての競馬が好きだったこと、そしてアスリートとしての騎手に憧れていたこと、という非常に単純なものでした。

 併せて、己の腕一本で自立して生きていきたいという、自分の志向性にもフィットしたのだと思います。自営業者の家に生まれたこともあってか、独立した個人であり続けたいという気持ちを強く持っていました。騎手は実力本位の世界です。実力があり、それが認められて良い馬に乗る機会があれば勝つことができます。また世界中で開催されている競技でもあり、仮に自国に活躍の場がなくなっても、腕が確かであれば世界中のあらゆる競馬開催地で食べていくことができます。当時の自分には、こうした生き方が非常に潔く映りました。もしも自分に力量がないのであれば、それは自分が原因であると諦めもつきます。

 こうしたポジティブな動機と同時に強かったのが、ネガティブな動機です。中学生当時の私は「自分にとっての幸せとは何か?」「なんで高校に進学しなければいけないのか?」といった問いを悶々と考え続ける少々風変わりな中学生でした。なかなか答えを見出すことはできませんでしたが、納得いく回答を示す大人に巡り会うこともなかったので、自分なりに考えてみるしかなかったのです。

 考えた揚げ句、「良い高校」に進学するのは「良い大学」に進学するためであり、「良い大学」に進学するのは、「良い会社」に就職し、生きていくうえで満足できる程度のお金とステータスを得て、「良い暮らし」をするためであると考えるに至りました。それでは、改めてなぜ「良い暮らし」をするのか、もしくは「良い暮らし」とは何かを突き詰めて考えてみると、それは結局、世間一般の尺度で測った価値にすぎないと思うようになったのです。

 中学生なりの拙い考えではありましたが、そう思った途端、高校に進学することが自分にとって随分と取るに足らない、無意味なことに思えてしまいました。うまくレールを進んだ先に得られるものが、自分の尺度で測った幸せではないのですから。私は誰かに褒められるために生きていたわけではありません。

 そう考えると、他人と同じレールからは早々にドロップアウトし、他人から見た尺度にははまらなくても、自分のやりたいことを追求したほうがよほど自分にとっては幸せだろうと思るようになったのです。周りの同級生たちが高校に進学していくなかで、あたかも「脱藩」するような感覚でした。

 今になって振り返ってみると、随分と生き急いでいたようにも感じます。仮に今、同じような相談を中学生から受けたら、「まぁ落ち着けよ」となだめる程度には年も取りました。ですが、どんな内容であれ、内から湧き出る強い動機は行動を起こす源であり、継続する力になることは間違いありません。

(2)選択基準:みずからが納得するために

 次に選択基準です。

 右に進むか左に進むか、分岐点で決断を下す際に、自分なりの選択基準が定まっていれば、たとえ決断の結果が芳しくなかったとしても、自分なりに納得がいくはずです。自分が一体何を大切にしているのかを、意識的に言語化することです。肝心の選択基準は人それぞれですが、私にとってそれは「先々に後悔を残さない道を選ぶこと」でした。

 映画『ウォール・ストリート』のCMコピーは「本当の失敗は挑戦しないこと」でした。主要キャラクターである強欲な投資家、ゴードン・ゲッコーとは友達になれそうにありませんが、このCMコピーには大いに共感します。

 また、アメリカの作家マーク・トウェインは、以下のような警句を残しています。

“Twenty years from now you will be more disappointed by the things you didn't do than by the ones you did do. So throw off the bowlines. Sail away from the safe harbor. Catch the trade winds in your sails. Explore. Dream. Discover.”
(20年後、あなたは自分がやったことよりも、やらなかったことに対してより失望するようになる。だから、もやい結びを解き放ち、安全な港から船を漕ぎ出し、貿易風を帆にとらえよ。探検し、夢を描き、発見せよ。)

 たしかスミソニアンであったかと思いますが、20代の中頃にどこかの博物館の入り口にこの言葉が書かれたパネルを目にし、大変感銘を受けたものです。

 挑戦した結果が失敗に終わったとしても、まだ諦めはつくでしょうし、吹っ切ることもできるでしょう。ですが、後になって「あのとき、ああやっておけば良かった」と後悔することだけは、どうにも我慢ができません

 何かを「やった」結果として表面化する分かりやすい失敗と違い、「やらなかった」ことは、ほかの誰からも責められることはないかもしれません。それでも自分はいつまでも自身を責め続けることになるでしょう。私にとってはこれこそが取り返しのつかない、本当の意味での失敗です。

 年を経て、己の来し方を振り返ったときに満足することができるかどうか。自分は心の底からやりたいと思うことに全力で取り組んだと思えるかどうか。こうした自分の納得感こそが、私にとって成功を測る尺度です。ですから、やりたい気持ちがふつふつと湧いてくるのであれば、うまくいくかどうかは二の次で、つべこべ言わずに食らいつくことを自分の信条にしたいと思っています。

(3)代替案:人生の致命傷を避ける

 そして最後に、代替案、プランBです。

 自分の挑戦が実を結ばなかった場合に備えた“転ばぬ先の杖”です。失敗を前提にするだなんて、随分とふがいなく聞こえるかもしれません。ですが、こうした退路があるからこそ、安心して思い切った決断ができるのではないでしょうか。

 私が中学を卒業した後に渡豪して騎手を目指すと宣言した際、周囲からは散々反対されました。百歩譲っても、せめて高校を出てから考えても遅くはないんじゃないか、とも言われました。極めて常識的な反応だと思います。

 このとき考えていたのは、自分が騎手になれなかった場合、どうなるのかということです。恐らく、一度は降りたレール上に再び戻り、大学進学を目指すことになるのでしょう。だとすれば、現実的に考えると、高校を卒業してブランクが空いた状態で、すんなりと大学に進学できるとは思えませんでした。大学受験というものはどうやら大変らしいということを中学生なりに薄々と感じてはいたのです。

 一方、中学卒業後にブランクが空いたとしても、選り好みをしなければ、高校進学はいかようにでもなります。レールの上に戻った末に控える将来の就職を考えてみても、出身大学を参考にする採用担当者はいても、出身高校まで気にかける人は稀でしょう。失敗した際の代替案という観点からも、高校卒業を待たずになるべく早い時期に挑戦するほうが挽回しやすいだろうと考えたのです。元来、私は臆病な性格です。だからこそ、安心して挑戦できるように、絶対に手詰まりにならない方法を考えます。

 起業の場合でも、事業がうまく立ち上がらなかった場合の状況を考えると、どうしても二の足を踏んでしまうのは無理からぬことです。ですが、あらかじめ失敗したときの挽回策について身を助ける当てがあれば、どうにかなるものです。それは資格かもしれませんし、友人や以前の取引先との信頼関係かもしれません。勤務先での実績かもしれませんし、人によっては家業ということもあるでしょう。

 失敗した際の挽回という点では、学生時代に起業するのは悪くない考えではあります。事業がうまく軌道に乗ればそのまま続ければいいですし、志半ばで終わっても、それをネタに就職活動に勤しめばよいのですから。事業を進めていく過程ではお世話になる方々に泥をかけぬよう、注意しなくてはなりませんが、信頼関係を失わぬ限りにおいては、また機会が巡ってくることもあるでしょう。何より、事業やお金はなくなったとしても、経験は残ります。

 逆に、「不退転の覚悟で挑戦する!」という考えには、あまり感心しません。気概は重要ですが、ほかならぬ自分の人生、たかだかひとつの失敗が致命傷になるようでは話になりません。

上手にリスクをとることもまた、「志」を追求するうえでの重要な才覚です。リスクをうまくコントロールできなければ、思い切った勝負などできません。「世界を変える!」と壮語するのも結構ですが、あらかじめセーフティネットを自身で用意しておく程度のしたたかさは持ち合わせておきたいものです。(続きは次回12/15に!)

スペシャル・インフォメーションPR
ダイヤモンド・オンライン 関連記事
コピー1枚とれなかったぼくの評価を1年で激変させた 7つの仕事術

コピー1枚とれなかったぼくの評価を1年で激変させた 7つの仕事術

Shin 著

定価(税込):本体1,400円+税   発行年月:2017年7月

<内容紹介>
たった1年で、ド落ちこぼれを外資系コンサルティングファームのマネジャーにまで成長させた超実践的成長ノウハウ! 「指摘のドラフトメール一元化」「最強のTodoリスト」……などコピー取りすらろくにできなかった20代の若手コンサルタントが、自分を変えるために必死で考えたオリジナルの7つの仕事術を紹介。

本を購入する
ダイヤモンド社の電子書籍

(POSデータ調べ、7/16~7/22)



朝倉祐介(あさくら・ゆうすけ)

1982年生まれ。兵庫県西宮市育ち。中学卒業後に騎手を目指して渡豪。身体の成長に伴う減量苦によって断念。帰国後、競走馬の育成業務に従事した後、専門学校を経て東京大学法学部卒業。在学中にネイキッドテクノロジーを設立。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、ネイキッドテクノロジーに復帰し代表に就任。同社の売却先となったミクシィに入社後、2013年より同社代表取締役に就任し、業績の回復を機に退任。2014年よりスタンフォード大学客員研究員。複数企業の取締役、アドバイザーを務めるほか、起業経験者によるスタートアップ投資活動(Tokyo Founders Fund)も開始している。


論語と算盤と私

希代の若手リーダーとして注目される朝倉祐介さんによる初の著書『論語と算盤と私』をご紹介していきます。中学卒業後に騎手を目指して渡豪し、身体の成長に伴う減量苦によって断念。帰国後、競走馬の育成業務に従事するも交通事故によって再び断念を余儀なくされ、専門学校を経て東京大学へ進学・・・とここまでも異色の経歴ですが、その後も、大学在学中に友人と興したスタートアップの経営 + マッキンゼーでのコンサルティング業務 + 社長としてミクシィの立て直しに奔走 + スタンフォード大学StartXのメンターや投資家としての活動・・・と多面的に活躍。本書では、そうしたさまざまな立ち位置を経験したからこそ体得し得た経営哲学が縦横無尽に語られます。
実務家経験と戦略的思考、抽象化能力を併せ持つ著者の率直な語り口からは、経営や組織、事業のありかた、資本市場との関わり方、個人の生き方を考えるうえでの多くの気づきをきっと得ていただけるのではないでしょうか。

「論語と算盤と私」

⇒バックナンバー一覧