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論語と算盤と私
【第16回】 2016年12月20日
著者・コラム紹介バックナンバー
朝倉祐介

人生で完膚なきまでの失敗をして
夢破れたら、一体どうなるのか

元ミクシィ社長の朝倉祐介さん初の著書『論語と算盤と私』では、会社という組織を軸に、起業期、成長期、成熟期、衰退期といったステージごとの組織の様子やそこで発揮されるべきリーダーシップ、市場との関係性などについてまとめられています。では、そうした組織や市場の中にいる「個人のあり方」はどうあるべきか――本書で触れられている朝倉さんなりの考え方を3回に分けてご紹介します。第3回の今回のテーマは、「人生で本当に失敗したらどうなるのか」。

 「動機」「選択基準」「代替案」という3要素を軸に、「安定」について触れつつ、話を進めてきました。

 ここで、かつて騎手を目指した当の私の身に何が起きたのか、簡単に述べておきたいと思います。

 オーストラリアの競馬学校に進んだ後、私は減量に四苦八苦する日々を過ごしました。育ち盛りということもあって、身長が急に伸びてしまったのです。摂取カロリーを1000キロカロリー程度に控え、運動で脂肪を落としましたが、なかなか40キロ台の体重を維持することができません。結局、体脂肪率が1桁前半まで落ちきったところで体調を崩し、日本に帰国しました。

 その後、職安通いを経て北海道の牧場に移り、デビュー前の競走馬の飼育や育成業務を行う調教助手として働きました。メジロマックイーン産駒の担当馬を持ち、やりがいを見出していたのですが、ここで交通事故に遭ってしまいます。この事故で、左足の大腿骨と下腿骨を粉砕骨折してしまったのです。激痛と40度の高熱にうなされながら4ヵ月間の入院生活を余儀なくされました。もはや肉体労働は続けられません。中卒の17歳にして失業者です。もう惨憺たる大失敗です。入院生活とリハビリのための通院を終えるまでは、肉体的にも精神的にも相当厳しい時期を過ごしました。

 ただ、15歳で騎手を目指すという決断を下したことについては、一度も後悔したことがありません。甚だ残念な結果ではありましたが、当初想定していたようにレールの上に戻り、大学に進学することもできました。おかげさまでその後もなんとかサバイブし、それなりに日々楽しく過ごすことができています。

 挫折はしたものの、15歳の頃の決断の結果として得た経験が、今の自分を形づくっていると断言することができます。良くも悪くも、入院時の苦しさと比べれば、ほとんどのことは大したことに感じられません。若いうちにしんどい思いをしたことは、長い目で見れば実は良かったのかもしれない。時を経るにつれて、そう解釈できる程度には辛い体験も風化しました。何事も捉え方ひとつです。過ぎてしまえばそんなものなのでしょう。「やりたいこと」を追求した結果、夢は断たれてしまいましたし、散々な目にも遭いましたが、それでもなお残るもの。それは、自分の中の納得感と経験であると思います。

 今になって振り返り、過去をこのように消化できたことに、あえて後付けの理由を求めるならば、それはここで述べた動機・選択基準・代替案という3要素を踏まえたうえでの決断だったからなのだと思います。

 もっとも周囲にしてみれば、中学を出たばかりの子どもがひとりで家を飛び出した揚げ句、大けがを負って帰ってくるというのはたまったものではなかったでしょう。自由に挑戦が許される環境にいたことは、非常に幸運だったと思います。

人生はネタ集めの旅。面白いことを追求しよう

 人は一体何のために働くのでしょうか。

 なんだか哲学めいた問いですが、どれだけ確信を持っているかは別にして、人それぞれに、なんらかの理由があることでしょう。マズローの5段階欲求(編集部注:米国の心理学者マズローによる、人間の欲求は低層から5段階で「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「尊厳欲求」「自己実現欲求」があり、低層から満たされていくとより高層の欲求を欲するとする説)を持ち出すまでもなく、働く理由を求めるならば、一義的には生きるため、食べていくためです。とにかく食べていくために目の前の仕事に一心不乱に打ち込むことは、「自分のやりたいこと」やキャリアなどという煩わしい悩みについてあれこれ考え続けるよりも、ある面においては気持ちが楽かもしれません。こうした最低限の身の安全が満たされるにつれて、徐々に物質的な充足から精神的な充足を求め出すのが人間の性なのでしょう。

 たとえば古代ギリシアの市民のように、生活のために一切働く必要がなくなったとしたらどうでしょう。それでもなお、目の前の仕事を続けるでしょうか。それとも別の活動にやりがいを見出すのでしょうか。遠くない未来、機械が人間の仕事の多くを代替する世界というのも、決して荒唐無稽な話だとは思いません。間もなく定年を迎える方々にとっては、現実としてわが身に起こる出来事でもあります。

 10代の頃から、私は人生を長い川を転がり続ける岩のようなものだと捉えてきました。最初は角張って歪な形をした岩が、上流から下流に流れていくにつれて角が取れて丸みを帯び、最終的には真ん丸い玉になる。こうしたプロセスです。人もまた、長い歳月の中であるときは成功し、あるときは失敗しながら、段々と自分の生命を丸みの帯びた、より充実したものにしていくのではないのでしょうか。生きることにあえて理由を求めるならば、こうした充実した生をつくっていくことではないかと思うのです。少なくとも、大過なく日々をやり過ごすことや長生きすることが、私にとっての人生の目的ではありません。

 そう思えば、人生のなかに無駄な出来事など何ひとつ存在しません。失敗なんてものは、できることなら御免こうむりたいものですが、そうした苦い経験の数々も、自分の生を形づくる大切な要素です。

 人生はネタ集めの旅。そう捉えて、純粋に面白いことを追求するのが理想的な生き方ではないかと私は思います。

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朝倉祐介(あさくら・ゆうすけ)

1982年生まれ。兵庫県西宮市育ち。中学卒業後に騎手を目指して渡豪。身体の成長に伴う減量苦によって断念。帰国後、競走馬の育成業務に従事した後、専門学校を経て東京大学法学部卒業。在学中にネイキッドテクノロジーを設立。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、ネイキッドテクノロジーに復帰し代表に就任。同社の売却先となったミクシィに入社後、2013年より同社代表取締役に就任し、業績の回復を機に退任。2014年よりスタンフォード大学客員研究員。複数企業の取締役、アドバイザーを務めるほか、起業経験者によるスタートアップ投資活動(Tokyo Founders Fund)も開始している。


論語と算盤と私

希代の若手リーダーとして注目される朝倉祐介さんによる初の著書『論語と算盤と私』をご紹介していきます。中学卒業後に騎手を目指して渡豪し、身体の成長に伴う減量苦によって断念。帰国後、競走馬の育成業務に従事するも交通事故によって再び断念を余儀なくされ、専門学校を経て東京大学へ進学・・・とここまでも異色の経歴ですが、その後も、大学在学中に友人と興したスタートアップの経営 + マッキンゼーでのコンサルティング業務 + 社長としてミクシィの立て直しに奔走 + スタンフォード大学StartXのメンターや投資家としての活動・・・と多面的に活躍。本書では、そうしたさまざまな立ち位置を経験したからこそ体得し得た経営哲学が縦横無尽に語られます。
実務家経験と戦略的思考、抽象化能力を併せ持つ著者の率直な語り口からは、経営や組織、事業のありかた、資本市場との関わり方、個人の生き方を考えるうえでの多くの気づきをきっと得ていただけるのではないでしょうか。

「論語と算盤と私」

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