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佐川男子、「暴力団員撃退」と「駐車違反身代わり」の浮き沈み

降旗 学 [ノンフィクションライター]
【第186回】 2016年11月26日
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 先月中旬、指定暴力団の組員が二人、逮捕された。容疑は恐喝未遂罪である。

 その筋の方が“フライパン(恐喝=カツアゲ → カツを揚げる道具=フライパン)”で挙げられるのはよくあることだが、今回の逮捕劇にはコントじみた背景があった。

 共謀の末、二人は高級腕時計をインターネットで購入することにした。値段は約八十六万円ほどで、商品は代金引換だった。が、二人は時計が欲しかったわけではなかったそうだ。

 「脅し取ると犯罪だが、一芝居打って商品を置いていかせよう。モデルガンをちらつかせれば、ビビッて置いていくはず」

 注文した高級腕時計が配達されたのは六月一二日のことだ。配達したのは佐川急便の男性配達員二名。東京都荒川区の組事務所に荷物が届くと、組員の一人が勝手に宅配物を開けた。

 そこに相方の組員が現れ、何やら罵声を浴びせると、荷を開けた組員にモデルガンを突き付けたのだという。目の前でやくざ者の内輪揉めが始まったら素人は逃げるはず――、と、この組員は思っていたらしい。配達員が逃げた隙に高級腕時計はいただいてしまおうと。

 配達員が逃げるところまでは計画どおりだった。二人の読みが外れたのは、逃げる際、配達員らが咄嗟に商品を組員二人から奪い返したことだ。さらに、背後から撃たれてはたまらないと判断した配達員は、組員が手にしたモデルガンまで取り上げて組事務所を飛び出していた。そして、走りながら携帯で一一〇番通報したのだという。

 配達員は、組員が持っていたモデルガンを“本物の拳銃”だと思ったらしい。配達で組事務所に赴くだけでも相当な勇気が要っただろうに、本物のやくざから、本物だと思っていた拳銃を取り上げた配達員は、なかなかに大したものだ。

 通報を受けた警察官が組事務所に駆け付けるが、組員二人はすでに逃走した後だった。その後、約四ヵ月の捜査を経て逮捕に至るが、取り調べの席で主犯格の組員は、

 「あの配達員二人には敵いませんや、強すぎる」

 と供述した(もう一方は容疑を否認)。ラガーマンを彷彿させる配達員と比べると、逮捕された組員二人はあまり恵まれた体格ではなく、かなり見劣りするとのことだ。捜査関係者も、

 「肉体的な強さもさることながら、“後ろから狙われたら危ない”ととっさに銃を奪い取る判断力は素晴らしい」

 と称賛した。

 その筋の方々に“強すぎる”と言わせしめた配達員だが、彼らはあらかじめ会社が“選抜”した屈強な配達員だったのだという。

 本来、宅配便は配達員が一人で配達するという原則があるが、配達先の住所が組事務所だったこと、さらに配達物が代金引換の高級商品だったことから、不測の事態に備え、選りすぐりの配達員を向かわせていたのだそうだ。そうしたら、案の定というのか、コントのような仕掛けがあったのだが。

 産経新聞社が佐川急便に恩義があるかどうかは知ってる人しか知らないが、今回の逮捕に貢献した二人の配達員を産経新聞はこんなふうに表した。

〈「佐川男子」。青と白のボーダー柄の制服に筋肉質な体を包み、さわやかな笑顔で荷物を運ぶ佐川急便の男性配達員は、ちまたでこう呼ばれている。女性からの人気が高く、イケメンドライバーの写真を集めた公式ファンブック「佐川男子」が出版されるなど、同社のPRにも一役買っている〉

 あまりの持ち上げっぷりに、もしかしたら産経の記者は佐川から四〇〇〇万円くらいもらってヨイショ記事を書いてんじゃないか……、なんて勘ぐってしまうが、それはもう四半世紀も前の話。当時の佐川急便は数億の闇献金や数千億にも及ぶ不正融資をしていました。

 かつては暴力団とずぶずぶの関係だった佐川急便がいまでは暴力団を懲らしめるまでになった。逮捕に貢献の配達員は天晴れだが、残念なことに、さわやかイケメンをそろえた“佐川男子”に“裏の顔”があったこともつい先ごろ発覚した。

 駐車違反の、身代わり出頭である。佐川急便東京営業所は、黒岩彰みたいなことをやってしまったのである。駐車違反で切符を切られた際、東京営業所の係長二人を含む計六人が身代わり出頭に関わったとして、今月二二日、警視庁に逮捕された(犯人隠避教唆および犯人隠避容疑)。

 これで、やくざ逮捕のお手柄も吹っ飛んだ。佐川急便の係長らが逮捕されたのは、やくざがお縄になったわずか一週間後のことだったのだから。

 「五月にある社員がトラックを運転中に駐車違反をして違反切符を切られた際、知人の男性を身代わりに出頭させた疑いが出ています。この知人男性が普通免許しか持っていなかったために発覚しました」

 逮捕された六人は、二〇一四年一一月と今年五月、駐車違反をした配達員に代わり、元社員や委託先の社員らを“身代わり”で出頭させ、検挙を逃れていた。そういった意味では、かなり悪質だ。

 逮捕された係長は、配達員の班編成や配送先、配送ルートを指示する中間管理職だが、配達員から駐車違反の報告を受けると「身代わりという手がある」と自ら提案していたのだそうだ。係長らは取り調べで「身代わりがまかり通る社内の雰囲気があった」との説明をしているという。

 佐川急便東京営業所では、違反の取り締まりを受けると、運転業務ができなくなる規則だったため、業務に支障をきたさないよう身代わりをさせていたとのことだ。身代わりを頼んだ配達員も、「駐車違反で人事評価が悪くなるのを避けたかった」と供述している。

 そして、身代わりで出頭した元社員らには、配達員からそれぞれ二~二万五〇〇〇円の報酬が支払われていた。こうしたやり取りは暗黙の了解だったのだろう。警視庁担当記者が言う。

 「(前略)昔のやくざには『親分の代わりに懲役に行ってきます』と身代わり出頭する組員がいたものですが、罪の軽重はあるにせよ、同じこと。他の複数の社員も知人を身代わり出頭させていた疑いがあり、警視庁では悪質な違反逃れが横行していたと見ています」

 国交省がまとめた『宅配便取扱実績』によると、二〇〇九年を機に宅配便の取扱量は三十一億個から三十七億個に急増している。その背景にあるのはインターネット通販の拡大だ。警視庁担当記者が続ける。

 「業界も小型の集積場を増やすなどの対応を取り、警察も時間帯を限って駐車を認めるといった寛容な対応でしたが、東京都トラック協会の調査では、回答した企業の半数が一四年中に違反取り締まりを受けたことが発覚しました」

 駐車違反は佐川急便だけではないが、身代わり出頭で逮捕者を出したのは佐川急便だけだ。

 佐川急便・東京営業所には約二七〇人の配達員がいて、任意の聴取では約三〇人が身代わり出頭を頼んだ経験が“ある”と答えてはいるが、一四年一月以降、東京営業所での駐車違反の七割は身代わり出頭だった疑いがあると見られている。

 配達個数が増え、また、時間指定などのサービスもあることから宅配便の配達員が時間に追われ、つい駐車違反を犯してしまうのだろうとは思う。その点は同情できるが、しかし、違反切符を切られると人事評価が下がる、あるいは一定期間、宅配業務ができなくなるとの理由から身代わりを頼むのは、はたしてさわやかイケメンと称された“佐川男子”のやることだろうか。

 やくざ逮捕に貢献して称賛された佐川男子が、やくざも真っ青の身代わり出頭で他人に尻拭いをさせていたら情けないではないか。

参考記事:産経新聞11月15日22日付
週刊文春9月29日号他

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降旗 学[ノンフィクションライター]

ふりはた・まなぶ/1964年、新潟県生まれ。'87年、神奈川大学法学部卒。英国アストン大学留学。'96年、小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。主な著書に『残酷な楽園』(小学館)、『敵手』(講談社)、『世界は仕事で満ちている』(日経BP社)他。


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