企業買収と同じようにウェブサイトを売買する、サイトのM&Aが活発化している。サイトの買収というと、Googleの「YouTube」買収など、大型売買案件を思い浮かべることも少なくない。が、最近では、個人が構築したサイトを買い取る小規模のサイト売買も増えている。

 売買されるサイトは、物販・通販サイトやユーザ投稿型サイト、地域情報のポータルサイトなどさまざまだ。中には、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やブログ、メールマガジンの売却もある。買い手、売り手とも、個人もあれば法人もある。

 サイト買収が増える背景として、売買仲介を行なう企業が増加していることが挙げられる。とくに、GMOインターネットやアイレップ、フルスピードといったIT系上場企業が仲介サービス産業に参入し、買い手希望者がインターネット上で売り出し中のサイトを物色できるようにもなったことも大きい。アイレップが運営する「サイトストック」では、常時500件あまりの案件を扱う。売却金額は数万円から、大きいものでは数千万円にのぼるという。

 民間の調査会社、矢野経済研究所によると、サイト売買は今後成長が期待できる市場だという。国内サイト売買市場規模(成約案件ベース)は2007年度が270件。この先2010年度には1500件になると予測する。

サイトストック
「サイトストック」トップ画面。売却案件が並ぶ。

 サイト売買市場の伸びについて、「サイトストック」を運営するアイレップの渡邉真人氏は次のように語る。

 「リアルの企業間M&Aだと、数億から数十億円かかるケースもあり、リスクは高いです。しかも、買い手は売り手企業のビジネスモデルや人員など資産全てを得ることになります。が、中にはこれら全ては不要で、たとえばサイトとサイトを訪れる顧客だけが欲しいと考えている方もいらっしゃいます。サイトの買収なら事業の譲渡という形により、ピンポイントで欲しい部分だけを取り込めます。売買金額を低く抑えることができるのもサイト買収のメリットです」

 不況のこの時勢、リスクの軽減という面でも、サイト売買のニーズが高まっている。

 とはいえ、サイト売買は市場自体ができたばかりで、サイトの査定方法など、ルールが定まっていない部分が多い。加え、仲介業に対する参入障壁も低い。買ってはみたものの、予想以上に労力や運営費用がかかる、思っていたよりも売上が上がらない、といった問題が発生する可能性は否定できない。

 GMOやアイレップ、フルスピードでは、「サイトデータ(PV・会員数・売上)の信憑性を検証」「引継内容や時期を明確化」「買い手、売り手、仲介の三者によるコミュニケーション」「エスクローサービス(*)」など、トラブルの未然防止に努めている。

 フルスピードが運営する「サイトキャッチャー」では、仲介者を使わない個人間の直接売買も扱っており、この顧客向けには交渉時にサイトデータの最新資料を取得することや、サイトキャッチャーが作成する譲渡契約書を交わすことなどをアドバイスしている。いずれにしろ、トラブル回避のために、仲介企業が調査や三者間のコミュニケーションに対して、どれだけ人手をかけているかが一つのポイントになる。

 リアルの企業M&Aと同様、サイト売買には、トラブル回避や売買に関する専門知識など、幅広いノウハウが必要である。この意味でも、今後の市場拡大にとって、仲介企業の果たす役割は大きい。


(*)ここでいうエスクローとは取引の安全の確保のために、第三者である仲介者が金銭を預かり、買い手がサイトを確認した後、第三者が売り手に代金を送金することを指す。

(江口 陽子)