そのような状況を背景として、安易に現場に委ねられたOJTはブラックボックス化していきました。そこで、OJTの指導行動を科学的に分析し、「見える化」しようというのが、私たちと、神戸大学大学院経営学研究科の松尾睦教授(当時は小樽商科大学教授)の問題意識でした。

 さて、9つの観点、38の指導セオリーは、おそらく、採り入れれば、すぐに効果をあらわすでしょう。熱心かもしれないけれど、無意識におこなわれてきた若手指導とはまったく違いますし、なによりそれは、優れたOJTリーダーの指導行動を分析して得られたリアルなセオリーなのですから。

 ところで、OJTによって、より若手を成長させるために、もうひとつの切り口を考えてみたいと思います。

セオリーとは別の切り口
――誰がOJTを行うのか?

 それは、「誰がOJTを行うのか」という観点です。

 従来、OJTといえば、人事部なり現場の上長なりが指名したOJT指導担当者が、若手との1対1、垂直的な関係の中で実行されるものでした。

 この1対1の関係は、ともすると煮詰まってしまいがちです。それは、なにも若手が「折れやすい、ゆとり世代だから」ではありません。

 OJT担当者が、なかなか若手の成長が感じられずに、ひとりで責任を抱えこむというのは、しばしば見られるケースです。OJT指導に真摯に取り組めば取り組むほどそうなりがち、というのは不幸な事態です。

 ひとりが責任を抱え込むOJTというのは、なにかが間違っているように感じられます。