現代の優れた業績もディープ・ワークから

 時代を進めて、J・K・ローリングは、ハリー・ポッター・シリーズ執筆中はソーシャル・メディアから遠ざかっていた――当時、テクノロジーが進歩し、メディアとして人気も上昇していたのだが。最終的に2009年の秋、スタッフがローリングの名前でツイッターのアカウントを運用しはじめたが、ちょうど彼女が『カジュアル・ベイカンシー 突然の空席』に取り組んでいたときで、最初の1年半でつぶやいたのはこれだけだ。「これは本当の私ですが、あまりお話しできそうにありません。いまのところ私にとってペンと紙のほうが大事なので」

 もちろん、ディープ・ワークは上記のような歴史的事項やテクノロジー恐怖症に限ったことではない。マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツは周知のように年に二度、「考える週(Think Weeks)」を設け、その間は引きこもり(しばしば湖畔のコテッジで)、ただ本を読んだり大きな構想を練ったりする。1995年の「考える週」では、ゲイツは名高いメモ「インターネットの潮流(Internet Tidal Wave)」を書き、スタッフの注意を新興企業、ネットスケープに向けさせた。

 影響力のある多くの人々がディープ・ワークに努めているという事実は重要である。現代の知的労働者の大半の行動と著しい対照をなすからだ――彼らは物事を深く極めることの価値を急速に忘れようとしている。

 知的労働者がディープ・ワークに努めなくなっている理由は、はっきりしている。ネットワーク・ツールのためだ。メールのようなコミュニケーション・サービス、ツイッターやフェイスブックのようなソーシャル・メディア・ネットワーク、そして派手に乱立する娯楽情報番組を牛耳る広範な分野のことである。概して、こうしたツールの台頭は、スマートフォンやネットワークに接続したオフィスのコンピュータを通じて簡単にアクセスできるためでもあるが、このことは大半の知的労働者の関心を分散させた。

 2012年のマッキンゼーの調査では、平均的な知的労働者はいま週間労働時間の60パーセント以上を費やして、コンピュータによるコミュニケーションとインターネットの検索をおこない、30パーセント近くをメールを読んだり返信したりすることに費やしている。

 こんな注意散漫な状態では、長時間中断されないで思考することが必要なディープ・ワークをおこなうことはできない。だが、現代の知的労働者が怠けているわけではない。事実、従来どおり多忙だと言っている。この矛盾はどういうことか?大部分はディープ・ワークと対をなすもの、シャロー・ワークのためだ。