ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一

外資の脅威に完全勝利した
したたかな戦略

北 康利 [作家]
【第36回】 2016年12月14日
著者・コラム紹介バックナンバー
1
nextpage

次々とやってくる黒船

 日本ラバブル社と提携した直後、日本に駐在事務所を設けたのが、同じアメリカの下着メーカーであるエクスキュージットフォーム・ブラジャー社だった。

 有名な会社だけに、幸一はその名を知っている。ある日、東京出張所のある人形町から隅田川を渡って日本ラバブル社のある門前仲町の方向に歩いていた時、まったく偶然に、ラバブル社と背中合わせのビルにその看板を見つけたのだ。そのときの驚きといったらなかった。

 一難去ってまた一難である。考えている余裕などない。英語などろくに出来ないことも忘れ、躊躇することなく、すぐその場で玄関の呼び鈴を鳴らしていた。

 西洋では、幸運の女神は後ろ髪がないという。果敢にチャンスを捕まえようとする幸一の機敏な動きに、女神はほほえんでくれる。いつもは外出の多い支配人のロスティーンと副支配人のリチャード・ソリアーノが、たまたま社内にいてくれ、すぐ面談に応じてくれたのだ。

 驚いたことに、エクスキュージットフォーム社のほうでも、すでに和江商事の存在を知っていた。東京以外の地域でのシェアが高いことも調査ずみだ。

 「あなたの会社を我々に売らないか? 君は当社の営業部長として処遇しよう」

 それが彼らの口から最初に出た言葉だった。

 八幡商業で習っていたから、まったく英語がわからないわけではない。会社を売れと言っていることくらい察しがついた。急いで飛び込んだことを後悔しはじめていたが、幸一がもごもご言っているうちに彼らのほうで勝手に軟化してきた。

 「会社を売らないというのなら、近くアメリカ人モデルを販売員にして営業を始めるので販売提携をしないか」

 会社を売るなどということがそう簡単にできるわけがないことを知っていて、幸一の反応を見ていたのである。

 最初から彼らは提携狙いだったが、お前の会社を買ってもいいぞとジャブを打っておくことで、アメリカ企業の資金力の大きさを誇示してみせたというわけだ。このあたり、さすがにしたたかである。

次のページ>> 京都での提携交渉
1
nextpage
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR
【デジタル変革の現場】

企業のデジタル変革
最先端レポート

先進企業が取り組むデジタル・トランスフォーメーションと、それを支えるITとは。

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

北 康利 [作家]

きた・やすとし/昭和35年12月24日愛知県名古屋市生まれ、東京大学法学部卒業後、富士銀行入行。資産証券化の専門家として富士証券投資戦略部長、みずほ証券財務開発部長等を歴任。平成20年6月末でみずほ証券退職。本格的に作家活動に入る。“100年経営の会”顧問。松下政経塾講師。著書に『白洲次郎 占領を背負った男』(第14回山本七平賞)、『福沢諭吉 国を支えて国を頼らず』、『吉田茂ポピュリズムに背を向けて』(以上、講談社)、『陰徳を積む 銀行王・安田善次郎伝』(新潮社)、『西郷隆盛命もいらず、名もいらず』(WAC)、『松下幸之助 経営の神様とよばれた男』(PHP研究所)などがある。最新刊は『佐治敬三と開高健最強のふたり』(講談社)。


ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一

ブラジャー。この華やかな商品に一生を捧げた男がいた。戦後京都を代表するベンチャー企業「ワコール」を創業した塚本幸一である。インパール作戦の生き残りという壮絶な戦争体験を持つ彼は、いかにして女性用下着に出会い、その未開市場を開拓していったのか。ベンチャースピリット溢れるその豪快華麗な生涯を、いま最も注目される評伝作家・北康利が描きだす!

「ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一」

⇒バックナンバー一覧