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焦点:企業の労働分配率低下、増える剰余金 来春闘も期待薄の声

2016年12月2日

[東京 2日 ロイター] - 企業の労働分配率が足元で低下している。稼いだ利益は内部留保に積み上がっている構図だ。経済界が業績の先行き不安や人口減少に身構えているためで、このままでは来年の春闘での賃上げも期待できないとの見通しが専門家の一部から浮上している。安倍晋三首相は最低でも今年並みのベアを経済団体に要請しているが、政府の期待は「空回り」する可能性がある。

<増益でも賃金伸びず>

 「賃金の伸びしろが、まだあることが示された」──。SMBC日興証券・チーフエコノミスト牧野潤一氏のチームによると、2016年7-9月期法人企業統計における企業の付加価値に占める人件費は59.8%と、5四半期ぶりに60%を割り込んだ。

特に、従業員給与は0.2%増と過去4四半期で最低の伸び。このところ経常利益は前期比で伸びが続いているが、対照的に人件費は抑制傾向が鮮明となっている。

一方、利益剰余金(内部留保)は15年度に160兆円と14年度の137兆円から23兆円増加した。16年度も増益が続いており、四半期データはないものの積み上がりが続いているとみられる。

日本総研・調査部長の山田久氏は今の経済状況から見て、「企業は本来、1%のベースアップ(定期昇給)が実施できてもおかしくない。それをやっていないだけ」と指摘。ベースアップが1─2%なければ、デフレ脱却を確実に実現することはできないとみている。

<ベースアップはせいぜい0.3%程度か>

連合は来春闘で2%程度のベースアップを要求する方針を打ち出した。景気が停滞感を強めている中でも、昨年の要求水準の維持を何とか通した。

ただ、日本では個別組合の力が強く、連合の主導権は限定的。金属労協は月3000円以上を要求すると決めた。これは月例賃金の1%程度に相当する。

だが、実際に妥結した過去のベースアップは14年0.4%、15年0.6%に過ぎなかった。エコノミストの間では、来春闘でも0.1─0.3%程度と予想する声が浮上している。

第一生命経済研究所・主席エコノミストの新家義貴氏は「春闘で重視されるのは前年度の物価動向。まだ実現していない物価2%を前提として、賃上げに踏み切る企業は存在しないだろう。加えて円高などを背景として16年度は減益が見込まれている。収益面からも賃上げが加速する様子はうかがえない」とみている。

安倍首相は11月16日の働き方改革実現会議で「少なくとも今年並みの水準の賃上げを期待している」と発言し、ベースアップ率の維持ないし上昇を要請。「来春には原油価格の上昇などによる消費者物価の上昇が期待される。期待物価上昇率も勘案した賃上げの議論をお願いしたい」と発言した。

しかし、榊原定征経団連会長は同22日の記者会見で「ベアは一度実施すれば、様々な形で経営に長期的に影響することから、手当やボーナスなど業績反映型の処遇改善を重視したい企業が多い。ベアを含めた年収ベースでの賃金引上げを目指すことになるだろう」と語った。

企業にとって、トランプ次期政権の保護主義な政策の行方、円安・株高の反転リスク、日本の人口減少による市場縮小懸念など、恒久的な負担増への不安感が数多く存在する。

<企業と政府で責任押し付け合いの構図が続く>

他方、人手不足が深刻化してきた昨年辺りから非正規社員の時給が上がり出し、じわじわと所定内給与が上昇し始めた。とはいえ、非正規社員の所得水準が正規社員に比べて低く、全体を押し上げる力は限定的との見方が専門家の間では多い。

賃上げ加速の鍵の1つは、労働生産性の向上にある。BNPパリバ証券・チーフエコノミストの河野龍太郎氏は「働き方改革で円滑な労働移動・再配分を可能とし、生産性上昇を図らなければ、(賃上げを要請しても)利益の出ない企業を増やすだけになる」と語る。

日本生産性本部のデータによれば、15年はほとんど生産性が横ばいで推移。16年に入っても4─6月期までの2四半期は一進一退でほぼ横ばい状態が続き、生産性向上はほとんど実現していない。

もう1つのポイントは、人口減少による国内市場先細りへの対応策。一部の識者からは、政府による子育て対策や外国人労働者の受け入れ議論の遅れが指摘されている。

賃上げ加速の実現に対し「決定打」がなさそうに見える来年の春闘。安倍首相が笛を吹いても企業が踊らなければ、個人消費の停滞を招きアベノミクスの好循環が足踏みするリスクを指摘する声も専門家の間で出てきている。

(中川泉 編集:田巻一彦)

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