今年に入って、かつてアラブの優等生の1つと言われたチュニジアのベンアリ政権が崩壊した。長期政権を打倒する背景には、高い失業率と、食料品を中心に物価水準に苦しむ民衆のエネルギーがあった。仕事に就けない多くの国民にとって、食料品の価格高騰は大きな痛手であることは間違いない。

 チュニジアで長期政権を維持してきたベンアリ大統領のファミリーは、既得権益の厚い恩恵に浴していたと言われている。情報・通信の発達した現代社会で、そうした国民の不満が国の指導者に集中するのは、ある意味、当然の結果と言えるかもしれない。

 そのチュニジアの政治的混乱が、エジプトやヨルダンなど他のアラブ諸国にも波及している。エジプトでは、長期政権を続けてきたムバラク大統領の即時退陣を求める大規模なデモが起きており、ヨルダンでも政権が崩壊した。

原油・食糧価格の高騰に加え海運にも支障が
中東・北アフリカの混乱が招く世界的な影響

 これらのアラブ諸国の混乱は、2つの経路によって世界の政治・経済に大きな影響を与える可能性がある。

 1つは、原油価格の高騰などによって、世界経済の阻害要因になること。もう1つは、アラブ穏健派諸国の足場を失うことによって、米国の政治的な発言力が低下することだ。アラブ諸国をめぐる問題は根が深く、今後、大きなリスク要因になることが考えられる。過小評価することは適切ではない。

 中東のアラブ諸国が、主要な原油生産国であることを考えると、まず原油価格の上昇が懸念される。すでに足許で、原油価格は上昇を示し始めているが、今後上昇幅が拡大すると、世界的にインフレ懸念が台頭する可能性が高い。インフレ懸念の台頭は、新興国だけではなく、景気回復の足取りの重い先進国にも波及すると予想される。