「幸せ食堂」繁盛記
【第三九回】 2016年12月15日 野地秩嘉

魚はもちろんカレーも美味い、築地場外の「ヤバい」そば屋

築地の人たちが愛する店

 長生庵は築地の場外にある、一見、普通の日本そば屋だ。朝の7時から営業している。その時間に食事をしている、あるいは一杯やっているのは、市場に仕入れに来ている飲食店の人が多い。

「朝からよく食べる人もいれば、ビールや日本酒を飲む人もいます。でも、主流は腹ごしらえする人たちかな」

 店主の松本聰一郎氏はそう、うなずく。

「朝、みんなが食べるのはそばですか、それとも丼ですか?」と訊ねたら、「うん。いろいろあるけれど、いちばん人気はもち豚を使ったカレーそば(1300円)」(店主談)とのこと。 早速、それを注文した。

 運ばれてきたのを見て、あんぐりと口が開いたまま、閉じることができなかった。丼が大きい。中身も多い。大きな煮豚が3切れ、カレー味のつゆに浮かんでいた。しかも、つゆのなかにも豚肉が何切れも投入してある。そばもいくら食べても減らない。

 朝から、これだけの量を平らげる飲食店の人たちは健康そのものだ。

 カレーそばに限らず、長生庵は何を頼んでも量が多い。そのことを店主に伝えたら、「ダンナがお客さんには腹いっぱい食べさせたい人だったから」……。

 店主が言う「ダンナ」とは亡くなった彼の父親、好生(よしお)氏のこと。故好生氏は一度、普通の会社で働いた後、「食いっぱぐれがない仕事がしたい」とそば屋になった。

 ダンナは腹を減らした客がやってくると、ついつい大盛りにしているうちに、それが癖になってしまったと思われる。だから、長生庵はそばでも丼でも、ボリュームたっぷりだ。

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野地秩嘉 

1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。出版社勤務、美術プロデューサーなど を経て、ノンフィクション作家に。食や美術、海外文化の評論、人物ルポルタージュ など幅広く執筆。近著に、「TOKYOオリンピック物語」「イベリコ豚を買いに」「打 ち合わせの天才」「アジア古寺巡礼」「アジアで働く いまはその時だ」など。


「幸せ食堂」繁盛記

この連載は、味がよく、サービスも悪くなく、値段はリーズナブルで、しかも、できればハイサワーやホッピーを置いている店のグルメガイドだ。ここで紹介される店は、金持ちの社長やグルメ評論家はまずいない。著者は、そういう店を「勤労食堂」「国民酒場」と呼ぶ。そこでは客が微笑しながら食べている。ほほえみながら食べている人と一緒にいることは至福だ。人生の幸せは勤労食堂もしくは国民酒場にある。

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