今回から経営学教室の新しい執筆人として加わることになった。この連載では、一貫する一つのテーマを中心にすえて、議論を展開したいと思っている。そのテーマとは、日本の大企業で保たれている「終身雇用制度」、もう少し正確には「長期雇用制度」であり、その功罪について考えてみたい。今回はそのイントロダクションである。

 振り返ってみれば、日本で終身雇用制度がいつごろからスタートしたかというと、昭和の初期であり、実は80年ほどの歴史しかない。日本の大企業は、大学新卒の一括採用によって、コアメンバーを形成するというやり方をとってきた。したがって、定年までのおおよその勤続年数を35~40年とすれば、世代的にはまだ二回りしかしていないともいえる。

 ただ、二回り、80年という時の流れは相当な長さであり、企業のコアメンバーの考え方、価値観、生き方を、ある範囲のなかに囲い込んでしまったともいえる。

日本の大企業が
いま直面している現実

 終身雇用をベースとする大企業の組織の仕組み自体は、基本的にはこの数十年間変わっていない。終身雇用制度を続ける理由はいろいろあるが、今日において経営陣がこの制度を続けると意思決定したわけではないので、終身雇用はもはや経営の与件になっているということである。したがって、今後も終身雇用を急にやめるということはありえない。

 一方、日本企業は、現在あるいはこれから進行する、国内外の経営環境の変化を見たときに、競争力の点でどこまでやっていけるのか、という問題を抱えている。国内環境は少子高齢化、情報化が進み、新卒者も極めて安定志向が強い。そして国内経済活動は停滞しており、国内依存度の高い企業は、経営を活性化することが難しい。そうなると、こうした企業にとって、オプションは二つしかない。