就活に追い詰められ、苦悶する学生たちの姿を追ったテレビ報道をしばしば目にする。だがそのたびに私は、学生たちの異様な言葉に驚きを禁じ得ない。

「70社受けました」「100社受けました」でも「ダメでした」といった具合のコメントがこれみよがしにテレビ画面に映し出される。内定をもらえなかった会社数の多さこそが、「超氷河期」と呼ばれる過酷な就活事情をストレートに物語っていると視聴者に訴えかけたいのだろう。だが、これほど無責任な報道はない。

 70社も100社も受験することが物理的にできるだろうか。おそらく希望した企業のHPにアクセスし、エントリーシートを送信した数ではないのか。そのなかで実際に説明会に参加し、さらに面接にまで進むことができた企業はいったい何社くらいあったのだろうか。そうしたディテールをすべてが切り捨てられ「70社」「100社」という数字だけが独り歩きしている。

 就活が過酷であればあるほど、その全体像を正確に伝えるのが、メディアの責務だろう。だが就活報道の実態は、野次馬以下だ。問題のありかをさまざまな切り口から掘り下げる努力も試みもない。まるで談合をしているかのうように、ただただ「非常事態だ」と大騒ぎをして、社会不安を煽りたてるだけの報道が目立つ。

 たしかに昨年の就職内定率は68.8%。「就職氷河期」と呼ばれた1996年当時を下回る厳しさだが、おなじ「氷河期」でも当時と今とでは状況が全く違う。

今は本当の“就職氷河期”ではない
採用が「量より質」にシフトしたのみ

「“就職氷河期”という言葉はリクルートが創った言葉ですが、それが(現状に)当てはまるとは思っていません。大手企業が新卒を一括、大量採用することが前提だった時代にあって、(バブル崩壊後に)あの大手もこの大手も採用を凍結するという事象が起こり、それを就職氷河期と表現しましたが、今は違います。苦しくても新卒を採用したいという企業は多い」

 リクナビの岡崎仁美編集長のコメントだ。

 私が出演しているBS日テレの情報番組『財部ビジネス研究所(TBL)』で就活問題を特集、そのインタビューに岡崎編集長が応えてくれた。

「(採用時に)量より質という方向性が厳格に貫かれている中で、需給バランスだけでいうと、学生はどこでも就職できる数字になっている。しかし実際は、(人事部は採用枠を)採り切らないまま採用をやめたり、中途採用と新卒採用にこだわらずに採用したりというような中で(新卒の)就職難という事態が続いている」

 それは数字の上にもはっきりと現れている。