橘玲の世界投資見聞録 2016年12月22日

同じ南米の大国なのに、
アルゼンチンがブラジルとは全く印象が異なる理由
[橘玲の世界投資見聞録]

 アルゼンチンはブラジルと並ぶ南米の大国だが、ふたつの国の印象はまったく異なる。サッカーでいえば、歴代のアルゼンチン代表はリオネル・メッシやディエゴ・マラドーナのように、ヨーロッパ系白人か、白人とインディオの混血であるメスティーソがほとんどだ。それに対してブラジルは、ペレからロナウジーニョ、ネイマールまで、アフリカ人の血を受け継ぐ選手が真っ先に頭に浮かぶ。隣国にもかかわらず、ここまではっきりと人種的なちがいがあるのはなぜだろう。

 最初に思いつくのは、ブラジルが旧ポルトガル領で、アルゼンチンが旧スペイン領だということだ。

 コロンブスがインディアス(アメリカ大陸)を“発見”すると、大航海時代の両雄であったスペインとポルトガルの間で支配領域争いが起こった。これを調停したのが1494年のトルデシリャス条約で、西経46度37分を分界線とし、そこから東で新たに発見された地はポルトガルに、西の地はスペインに権利が与えられることとされた。

 この条約はもともとは大西洋の島々を分割するためのもので、当時、南米大陸のことはまったく知られていなかった。だがこの分界線を延長すると巨大な大陸にぶつかったことで、その東側(ブラジル)がポルトガル領となり、それ以外がスペイン領とされたのだ。

 だがこれだけでは、なぜふたつの国で人種構成が大きく異なるのかはわからない。じつはこのことは、単純な地理から説明できる。

ブエノスアイレスのシンボル、オベリスコ        (Photo:©Alt Invest Com)

 

アルゼンチンに黒人が少ない理由

 アフリカ大陸と南米大陸は、ハート型をふたつに切って、膨らんだ部分を向かい合わせにしたような配置になっている。アフリカ大陸で中南米カリブにもっとも近いのはセネガルからナイジェリアにかけての西アフリカで、大陸奥地から狩り集められた黒人たちは、奴隷海岸の港から次々と“出荷”された。

 奴隷の輸出先は17世紀にサトウキビの一大産地になったカリブの島々だが、次いで南米にヨーロッパ人が進出すると、赤道に近い(現在の)ブラジル北部もサトウキビの栽培に適していることがわかった。そこで宗主国のポルトガルは、サトウキビの一大プランテーションを開発すべく大量の奴隷をアフリカから送り込んだ。

 その後、砂糖が安価かつ大量に製造できるようになり価格が暴落、サトウキビ農園の経営も悪化したが、こんどはヨーロッパでコーヒーが大流行した。南米大陸のなかでコーヒー栽培に適しているのは、大陸中央部のアンデス山脈の東側、現在のサン・パウロ近郊の丘陵地帯だった。こうして北部のサトウキビ農園にいた黒人奴隷が大挙して南に下り、ブラジル全土にアフリカ系人種が広がることになった。

 それに対して現在のアルゼンチンはハート型の先端に位置し、広大なラプラタ川河口は良港ではあるものの、17~18世紀の航海術では世界のどこからも遠すぎた。地中海に近い寒冷な気候ではサトウキビもコーヒー栽培にも適さず、この地を訪れたスペイン人たちはポトシ銀山で一攫千金の夢に沸くアンデス山脈を目指して移動していった。

ラプラタ川の広大な河口をウルグアイ側から眺める    (Photo:©Alt Invest Com)

 しかしその間、アンデス山脈東部のパンパスと呼ばれる広大な草原地帯では奇妙なことが起こっていた。スペイン人が旧大陸から連れてきた牛が、天敵のいないこの地で大繁殖したのだ。この大規模な「家畜の野生化」によって、ラプラタ地域の牛の数は19世紀に1500万~2000万頭まで増えたとされる。

 もともとは家畜だった野生の牛がここまで増えると、こんどはその牛を目当てに生計を立てようとする男たちが現われた。これが「ガウチョ」で、その語源が「孤児」や「放浪者」であることからわかるように、彼らは夢を追って南米に渡ったものの、社会の主流から落ちこぼれ食い詰めたスペイン系白人だった。

 西部劇に出てくるアメリカ(北米)のカウボーイは、広大な土地で牛を飼育する牧場主に雇われていた。それに対してガウチョは、野生の牛の集団に寄生する自由業だった。

 当時、ヨーロッパから南米に渡るのはほとんどが男で、南米大陸には白人女性がきわめて少なかった。もちろんパンパスで牛とともに放浪するガウチョと生活を共にしようとする白人女性などいるはずもなく、ガウチョはインディオの女性を妻とし、子どもをつくるようになった。

 このようにしてアルゼンチンの草原地帯に生まれたガウチョの文化は、のちに「南米のパリ」と呼ばれるようになるブエノスアイレスに暮らす、洗練されたヨーロッパ系白人の文化とはまったく異なるものだった。

 パンパスのガウチョは、「ポンチョをまとい、ギターを奏で、ナイフを操り、乗馬の達人で、3個の石を皮ひもで繋いだボレアドーラスという石投げ縄を巧みに使い、独自に発達した社交儀礼で仁義を切ればタダ飯が食えるなど、ひとつの等質的な生活文化をもつ集団」をなすにいたった。その後のアルゼンチンの歴史は都市(ブエノスアイレス)と地方(パンパス)の対立に振り回されることになるが、それは建国当初から運命づけられていたのだ。

 


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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