〈第2部〉
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー副編集長が聞く『ビジネス構造化経営』

企業経営の理論と手法は、ビジネス目的の1つに株主価値最大化を求め、大きく発展を遂げた。そして時を同じくして、顧客志向が叫ばれ始める。多様化、複雑化を極める近年、企業がその強みを発揮し相対的に優位な成果を得るにはどうすればよいのか。これまでの経営理論を統合した、改革への戦略論。ビジネスの本質を「構造ベース」で俯瞰し戦略化し一貫する、顧客に向く「全体最適」経営である『ビジネス構造化経営』について、提唱者・武井淳氏に、DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー副編集長・木山政行が聞いた。

改革実務の実感から生まれた理論

QUNIE Corporation
(株式会社クニエ)
マネージングディレクター
武井 淳
慶應義塾大学経済学部卒。(株)アクセンチュア、(株)ザカティー・コンサルティングを経て現職。20年以上に亘り、経営コンサルティングに従事し、内外企業の戦略立案、企業統合、IT戦略立案などのプロジェクトリーダーを歴任。現在はクニエにてサービス開発を統括するかたわら、執筆・講演活動を行っている。慶應義塾大学ビジネススクール非常勤講師。

木山ビジネス構造化経営理論の経営学的な背景はどのようなものでしょうか?

武井 マイケル・E・ポーターの『競争の戦略』(Competitive Strategy:1980)を中心とした戦略論に対し、ジェイ・B・バーニーの 『経営資源に基づく戦略論』(Resource Based View:1991)が内的リソース視点の概念を統合する形で、企業の外面だけでなく内面も重要なのだと主張しました。

木山 外的要因だけでなく、持っている内的要因も経営に大きな影響を与えるということでしょうか。

武井 この経緯を踏まえ、われわれコンサルティング会社も企業の外面と内面双方を考えて方法論を整備するようになりました。しかし個別の企業に接し改革作業を設計すると、アカデミックな研究成果では足りない要素があることが、実感としてわかってきました。

木山 それが、外面内面それぞれのビジネス要素を構造的に捉えるというコンセプトですね。

武井 『ビジネス構造化経営』は、私のコンサルタント実務からの実感と、その約20年の間に起こった経営理論、経営学での重要な変化の評価から生まれた理論です。

図3 ビジネス構造化経営の概念図3 ビジネス構造化経営の概念
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企業の「外面と内面」を統合的につなぐのは「顧客志向」

木山 あらためて経営理論や手法を見直して、コンサルタントとして気づきがありましたか?

武井 これまでの考え方は「供給側(企業側)からの理論」ではないか、ということです。

木山 昔から日本には「お客様本位」という考え方がありますが、経営学ではその視点を消化し切れていないと……

武井 企業の「外面と内面」をつなぎ、統合的に構造を明らかにする「基点」を顧客に求め、「顧客志向」を構造的に組み込む理論と手法を考えれば、よりよいコンサルティング、よりよい経営ができると考えたのです。

現象レベルと構造レベルに分けて「全体最適」を考える

木山 「全体最適」の追求に当たってのポイントは?

武井 『ビジネス構造化経営』では、現象レベルと構造レベルの2つに分けることで、例えば売上減といった「現象」の1つ(課題)が、企業を成り立たせている「構造」のパーツのどこに要因があるのかを解きほぐし、明らかにしていきます。

木山 「ビジネス構造化」アプローチの大きな特徴ですね。

武井 そして、その要因を評価する軸を、まず「顧客視点」に求めます。課題と要因、解決方向を、「顧客視点」つまり顧客接点(価値ケース)から見た「全体最適」の構造に照らして評価します。

「目的指向」を根幹に据える

武井 『ビジネス構造化経営』は、根幹に「目的指向」を据えています。企業の行うビジネスについて、各構造要素を目に見える形にします。それが、この理論で説く「構造レベル」です。どの企業でも市場があること、業務の連続によってビジネスを行うこと、業務を実行するのはリソースであること、それを推進し統制する組織・機構があること、という「構造」の見方は変わりません。

木山 構造要素を捉えるうえでの視点を、目的指向に置いているわけですね。

武井 例えば業績が頭打ちになった製造業が、現状を打開するためにサービス業の要素を導入することに可能性を見出すとします。しかし、これをアイデアだけで行っては大きな失敗につながります。何を取り入れ何を捨てるのか、またそのバランスをどうとるのか、その最適化のためのモノサシが「構造レベル」なのです。

木山 しかし、その最適化には顧客、株主、従業員といったステークホルダーごとの見方も必要となりますね。

武井 『ビジネス構造化経営』は「顧客視点」と「株主視点」のバランスを、ビジネス目的となる「基本視点」として捉えています。これは、企業経営や改革のターゲットを明確にして「全体最適」として評価をする視点を与えるため、非常に重要な要素となっています。

改革を継続し変化に対応するための「長期最適指向」

武井 『ビジネス構造化経営』は「全体最適指向」であり「目的指向」、そしてもう1つ「長期最適指向」を持ちます。全体最適も、ある時点だけでは十分ではない。企業は永続的な活動を続けることを約束して投資を受け、そのためには長期最適の視点が欠かせません。

木山 一般に企業改革はプロジェクト形式で行われ、終わるとチームは解散。その結果、改革が続かないという問題がありますが……

武井 コンサルティング会社やIT会社が示す方法論は、To Doを積み重ねるアプローチに偏りがちで、そこで抜け落ちるのは、アプローチしていく対象をモデル化する工程です。そのモデル化がしっかりできれば、改革のプロセスも目的志向で捉えることができ、改革の道半ばでモチベーションが低下することもなくなると思います。

木山 なるほど。事前に課題をモデル化することによって改革の立ち位置を時間軸でも実感できる、ということですね。

武井 はい。また、このモデル化には、改革を推進し続ける上での弊害となる部門間の視点の違いを統一する効果もあります。これも、部門あるいはプロジェクト間を跨いだ改革を継続することに大きく貢献します。