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焦点:官民で常態化する長時間労働と賃金未払い、若手に募る不満 

2016年12月19日

[東京 19日 ロイター] - 日本で働く多くの勤労者が、長時間労働に直面し、一部の時間外勤務では賃金不払いが常態化している例もある。この現象は民間企業だけでなく、政府の中枢である「霞が関」でもみられ、「過労死基準」とされる80時間超の残業を強いられる若年世代では、不満と徒労感が拡大中だ。抜本的な解決には、企業文化や人事評価制度、経済システム全般の大幅な見直しが求められる。

<ただ働きの実態>

 「残業は月80─100時間、繁忙期はさらに30時間程度余分に働く。残業代が支払われるのは概ね35時間だけ」──。

東京都内の鉄鋼商社で電子部品の営業を担当する男性社員(26歳)は、残業申請の際に時間調整を余儀なくされていると打ち明ける。

残業申請をカットされる背景について「会社の労働生産性が低過ぎて、マージンが取れないことがある」と、その男性社員は勤務している企業の利益率の低さを冷静に分析している。

大学卒業後、正社員として雇用され、非正規社員よりは高い給与水準ではあるが「体力的にもきつく、給与水準にも不満が残り、退職して米国留学を目指す」と語った。

連合総研が今年10月、民間企業に勤務している20─64歳の2000人を対象にインターネット経由で調査した「勤労者短観」によると、正規・不正規社員を含め、不払い残業が「あった」との回答は全体の38.2%を占め、過去3年間で最高となった。

所定外労働時間(残業プラス休日出勤)の平均は40.3時間、そのうち17.6時間が残業代未払いとなっている。

残業しても自己申告しない「慣行」も根強く存在している。IT企業でネットワークエンジニアとして勤務する男性社員(38歳)は「自ら稼いだプロジェクトの利益から、残業代が差し引かれる制度になっており、人事評価を上げるために残業代は申請しないことがある」と、その背景を説明した。

<公式統計で把握できない実態>

しかし、政府の公式統計では、こうした実態はなかなか浮かび上がって来ない。企業側が回答する厚生労働省の毎月勤労統計では、9月所定外労働時間は平均で14.2時間。働く人自身が回答した「勤労者短観」の40.3時間の半分以下だ。

このギャップについて、人事コンサルタントの松本利明・HRソトラテジー代表は「残業代の支払いを避けたい企業は多い。行政の監督が厳しくなっているとはいえ、不払いの問題はまだ多い」と指摘。

さらに「社員がどんなに働いても、残業時間が上限を超えないように記録することはよくある」と述べている。

<霞が関の常識、不払いの時間外賃金>

こうした残業代なしの「ただ働き」の実態は、民間企業に限ったことではない。働き方改革を掲げている安倍晋三政権のお膝元、中央官庁のエリート官僚が働く霞が関でも、深刻な事態となっている。

経済官庁に勤務するある若手官僚(26歳)は、法案書類のチェックや部署間の調整などで、毎日午後11時過ぎまで役所のデスクにかじりつき、毎月の平均残業時間は平均90時間にのぼる。

だが、100%申請しても、実際に残業代が支払われるのは7割程度と、その実態を明らかにした。

また、自分の残業時間は「ましな方だ」と話す。「3割はただ働きしているという感じは持っている。本当は早く帰宅して、自分にとって有意義な時間を確保したい」と語る。

安倍晋三首相自らが議長を務める「働き方改革実現会議」では、働く人の視点での議論を掲げている。同会議の有識者委員、白河桃子氏は「労働者側の実態把握も必要。不払い賃金をなくす工夫が求められる」と指摘する。

白河氏は、長時間労働是正に向け、労働基準法36条で明記されているいわゆる「36協定」改定の議論が同会議で行われる際に、不払い残業についても提言するつもりだという。

残業時間に上限を設けても、それを超える残業時間に対し不払い残業が増える可能性があり、罰則を強化し、政府がしっかりと監督することがその防止につながるとの考え方だ。

労働力不足が深刻となる中、「残業の上限は過労死基準と呼ばれる月80時間より少なくすることが必要だと思っている。そうでないと海外から知的労働者は誰も来てくれないだろう」とも語る。

ロイターの試算では、不払い残業をしている労働者に残業代が全額支払われた場合、1カ月に1人平均3万2543円の賃金増加となる。消費性向を勘案すると、単身勤労者の場合、残業代が全額支払われれば月間消費額が2万4000円分、13.4%程度増える余地がある。

第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏は「労働者側にとっては、その分所得が増えて消費に回す可能性もあろう。他方で企業にとっては労働コストは増えることになり、労働時間を減らすために生産性を上げる工夫をとるインセンティブにもなる」と指摘する。

残業時間が減れば早めの帰宅により、消費に回る効果も生まれる。むしろそうした形の効果の方が望ましいと熊野氏は説明する。

単に残業時間の上限を設定するだけはなく、日本人の労働慣行、企業の生産性向上、商慣行など、経済全般のシステムまで踏み込む必要があるようだ。

(中川泉 取材協力:スタンレー・ホワイト 編集:田巻一彦)

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