衣は食欲をそそるきつね色、肉の中心は薄いバラ色

 ポンチ軒は神田小川町にあるとんかつ、揚げものの店だ。店名は昭和4年(1929年 世界恐慌の年)に、とんかつを和定食スタイルで出した御徒町の洋食店「ポンチ軒」に由来している。

トータルなバランスの良さで勝負する<br />神田小川町のとんかつ屋で<br />揚もの三昧の宴会を!

 店内に昔のポスターを貼り、ノスタルジックな雰囲気にしているのも、現在のとんかつ定食スタイルを作ったポンチ軒への敬意のあらわれだろう。

 出てくるとんかつはいずれもオーソドックスなものだ。使っている肉は上(ロース1200円、ヒレ1300円、単品)がメキシコ産のチルド豚で、特(ロース2000円、ヒレ2100円、同)は沖縄県産豚。豚に桃や栗を食べさせたなどの、いわれのあるものではない。普通の豚肉だ。生パン粉は特製。通常の食パンからできたものよりも、糖分、塩分が少ない。そのため長時間、揚げても衣が焦げたりしない。

 一般のとんかつ店では揚げ油にラードまたはサラダ油を使っているが、ポンチ軒はコーンオイルとごま油のブレンド。出てきたときに、ほのかにごまの香りがする。

 肉につける打ち粉もポイントだ。小麦粉をはたいて溶き玉子につけるのではなく、店主が選んだバッターミックスを使用している。バッターミックスは小麦粉、玉子を混ぜたもので、衣がはがれにくく、肉と衣の間の充填物が多くなることがない。

 同業店では豚肉の産地、飼育法を声高に主張するところがあるが、ポンチ軒は肉、油、打ち粉、パン粉をトータルで選んでいる。衣は食欲をそそるきつね色で、分厚い豚肉の中心部は薄いバラ色だ。

 ステーキでも、まぐろの寿司でも、肉やまぐろだけが超高級品だからといって、できあがった料理がすごくおいしいわけではない。料理はトータルなバランスのたまものであり、作る前から完成品をイメージして、材料を集めてくることが料理人の力だと思う。

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