米投資銀行のゴールドマン・サックス(業界第1位)とモルガン・スタンレー(同2位)の2社は21日、そろって連邦準備制度理事会(FRB)の承認を得て、「銀行持ち株会社」(傘下に商業銀行を保有する持ち株会社)に転換する方針を打ち出した。

 これにより、大企業や富豪しか相手にせず、超エスタブリッシュメントとでも呼ぶべき存在だった投資銀行業は、資本主義国の米国から消滅することになる。

 そんな経済・産業史に残る“事件”を引き起こした真犯人は、いったい誰だったのだろうか。

 投資銀行と言えば、中小の胡散臭いブローカレッジハウス(株式などの流通市場での売買仲介専業の証券会社)とは、一線を画す存在だ。業務や商品では、ブローカレッジだけでなく、M&A(企業の合併・買収)や債権を小口化・流動化する「証券化」、デリバティブ(金融派生商品)といったハイテクものを幅広く手掛けて、決算のたびに巨額の富を稼ぎ出してきた。社員は、ハーバードやウォートン、MITといった超一流のビジネススクールやロースクールの卒業生ばかり。特に「世界の工場」と称された自動車などの製造業が相次いで拠点を海外に移したり、凋落したりして米国で存在感を失ったあと、「バンカー」と呼ばれた投資銀行だけが資本主義国の象徴として米国民が世界に誇れる唯一の産業だったのだ。

 こう考えると、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーの決定は、メリル・リンチ(同3位)、ベアー・スターンズ(同5位)の身売りやリーマン・ブラザーズ(同4位)の破綻よりもずっと大きなニュースかもしれない。両社の転業は、映画にもなった金融の街・ウォール街を根城に、20世紀初頭から栄華を極めてきた投資銀行の歴史にピリオドを打つことになるからである。

政治家は投資銀行こそが
大暴落の元凶と見た

 米国では、今年に入ってすでに12の地銀が破綻した。中には、インディマックのように預金を引き出そうという人々の長蛇の列ができ、取り付け騒ぎと報じられたケースもあった。その一方で、全米最大の保険会社AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)もFRBの緊急支援を受けた。まさに「金融恐慌」の嵐が吹き荒れている。

 日米のメディアは、この金融恐慌を、ゴールドマンやモルガンに銀行持ち株会社への転換を迫った主犯(金融恐慌主犯説)と報じている。銀行持ち株会社にはFRBから直接資金を取り入れられる利点があるからだ。だが、投資銀行が消滅に追い込まれた背景には、もっと根の深い政治的な理由があり、真犯人も別に存在すると言わざるを得ない。