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焦点:「トランプ流」保護主義はドイツに伝染するか

2017年1月16日

[ベルリン/フランクフルト 9日 ロイター] - 中国企業による自国企業の買収が多発したことを受けて、ドイツは外資による買収を制限する政府権限を見直している。とはいえ政権内では戦略的技術が国外に流出する懸念よりも自由貿易を支持する声が強く、変更が行われるとしても限定的なものに留まるだろう。

中国からの買収に対してドイツの警戒感が高まったのは昨年だ。独産業用ロボット製造大手クーカ<KU2G.DE>の買収に中国企業が名乗りを上げたため、政府は欧州企業による入札で対抗させようと積極的に動いたが、成功しなかった。

メルケル独首相は、ドイツの最先端企業の代表例としてクーカを称賛しており、2015年にアウグスブルクの本社を訪問した際、「たとえばクーカのような企業がドイツにあることを、私たちは誇ることができる」と従業員たちに語りかけている。

中国の家電大手の美的集団<000333.SZ>によるクーカ買収は、その誇りを傷つけた。その結果、ドイツ政府は外資による企業買収を制限する法的手段を見直しつつ、欧州として重要技術を保護する方策を推進することになった。

政府による検討の先頭に立っているのはガブリエル経済相である。同氏が率いる中道左派の社会民主党(SPD)は、メルケル首相の保守派キリスト教民主同盟との連立政権に参加している。最終的には、メルケル首相がジグマール経済相を抑えることになりそうだ。

 「何か改革が行われるとしても、根本的なものにはならないと思う」と語るのは、ベルリンのメルカトル中国研究所(MERICS)のミッコ・フオタリ氏。「首相が推進しない限り何も起きないだろう」

メルケル首相は自由貿易を深く信奉しており、今年ドイツが20カ国・地域(G20)の議長国を務めるに当たって「相互に結びつく世界の形成」をテーマに掲げている。これによって同相は、ドナルド・トランプ次期米大統領の保護主義的な衝動に抵抗することを狙っている。

クーカ買収の際にも、メルケル首相は、一般論としてドイツが中国からの投資に対して開放的であることを強調していた。ただしその見返りに、中国が市場を開放し、同様の投資条件を提供することを期待しているとも述べている。

昨年6月にこのような発言をして以来、メルケル首相は概ね中国企業による投資をめぐる問題から距離を置き、ガブリエル経済相に制限措置の検討を主導させ、波風を立たせる役目を任せている。11月の訪中時には、同経済相は中国の高虎城・商務相と意見を戦わせた。

 「どちらの側も遠回しな言い方はしなかった」とガブリエル経済相は中国側との会談後、記者団に語っている。会談で同経済相は、中国が国内市場へのドイツ企業のアクセスを制限する一方で、中国企業がドイツ企業を買収していることについて懸念をぶつけた。

<急ブレーキ>

ガブリエル経済相の強気姿勢は目に見える効果をもたらした。ドイツの照明大手オスラム<OSRn.DE>の買収案件に詳しい2人の関係者によれば、政治的な向かい風が強まる兆候を受けて、オスラム買収に対する中国側の関心は低下したという。

中国でも企業買収・合併(M&A)案件への監視が強まっている。外貨準備と対外収支への圧迫が強まることを懸念して、中国当局は違法な国際為替取引に対する取締りの一環として、対外投資プロジェクトの調査を始めている。

こうした調査が行われることで、中国企業としては、戦略上の明確な妥当性がない限り、ドイツ企業の買収を正当化することが難しくなる、と投資銀行関係者は指摘する。

 「ドイツ・中国双方ともブレーキに軽く足をかけている」とドイツ銀で国内コーポレートファイナンスの共同部門長を務めるベルトホールド・フュルスト氏は語る。

昨年、中国企業はドイツにおいて4件の買収案件から撤退した。トムソン・ロイターのデータによれば、このうち3件の買収額合計は5億7900万ドル(約664億円)に達している。残りの1件の買収額についてはデータが得られなかった。

トムソン・ロイターのデータによれば、中国企業が昨年ドイツ国内で行ったM&Aは56件、100億ドル近くに相当する。ドイツ政府は戦略的な技術の流出を、そして労働組合は雇用の喪失を懸念している。

ドイツ政府が中国からの買収に対する対応策を見直すなか、投資銀行関係者は、ドイツ国内における中国関連の買収は、しばらくのあいだ落ち着くものと予想している。

 「買い手となる中国企業は当面は慎重に行動するものと予想され、少数株式の取得など代替ディールに取り組む可能性がある」と英バークレイズのドイツ部門を率いるアレクサンダー・ドール氏は語る。

<強気姿勢の裏で小細工も>

ガブリエル経済相は昨年6月、外資による買収を阻止する政府権限の見直しを開始するにあたって次のように述べた。「市場を開放するためにドイツ企業・ドイツ国民の雇用を犠牲にすることはできない」

ドイツが外国企業による買収を制限・阻止するための手段としては「外国貿易及び決済法」がある。

だが、グローバルな自由貿易を堅持し、それによる恩恵を得ているドイツでは、大幅な変更は考えにくい。ドイツ当局者が口にするのも、海外からの買収に対するルールの「厳格化」ではなく「調整」だ。

現時点で、上記の法律によってドイツ政府ができることは、その買収が「ドイツ連邦共和国の社会的秩序又は安全保障を脅かす」場合に、「制限又は義務」によって介入することだけである。

同法では、こうした制限や義務は、軍装備品に対して、また「国家の機密資料を処理するセキュリティ機能」を備えたIT技術製品を製造する企業に関して「特に課すことが可能」と定めている。

政府がこのような基準をあまりにも広義に解釈してしまえば、結果として、司法による抵抗を受けることになろう。ドイツ政府は、国内における外国企業による買収については全般的に不干渉を貫いてきた。

2008年以降、海外からの投資に対する338件の政府監査のうち、政府側が開始したものはわずか1件であり、それ以外はすべて、コンプライアンス条件をクリアする必要があった、買い手側の外国企業による要請に応えたものである。

近年のドイツ政府による介入としては、2014年、カナダの通信機器大手ブラックベリー<BB.TO>による暗号化技術企業セキュスマートの買収に対して政府が制限を課した例がある。このときは、機密情報が海外の情報機関に漏れないことをブラックベリーが保証したことで、ようやく買収許可が下りた。

ドイツ政府が中国企業による買収を却下した例はまだない。ただし、中国の投資会社、福建芯片投資基金(FGC)は先月、半導体製造装置メーカー、アイクストロンの買収を取り下げた。米国が安全保障上の理由で買収を阻止したためである。

政府筋が匿名を条件に語ったところでは、経済省は9月に予定されている総選挙前に、外国企業による企業買収の精査に関するルールの改訂案を提出する可能性があるが、選挙前に法制化されるかどうかは不明であるという。

MERICSのフオタリ氏によれば、ドイツ政府がルールをやや厳格化する可能性があるという。「政府がやるとすれば、いつ買収案件を調査するかについての基準の変更だ。重要技術のリストに軍事・民生両用品を追加するかもしれない」

欧州連合(EU)レベルでの審査強化を実現するのも難しい課題だ。技術的ノウハウが中国に流出することを懸念している主な国はフランスとドイツだが、それ以外の国は投資誘致に熱心で、そうした懸念をあまり抱いていないからである。

ドイツ政府が中国からの買収への注目を高めていることについて中国はどの程度気にしているのか質問すると、中国外交部の報道官は、中国とドイツのビジネス取引は「ウィン・ウィン」の関係だと答えた。

<企業の反発>

多くのドイツ企業にとって、中国は引き続き非常に重要な存在である。

ドイツの自動車メーカーは依然、世界最大の自動車市場における成功を味わっている。昨年末にフォルクスワーゲン<VOWG_p.DE>が発表したデータによれば、今後数カ月にわたり、同社中核ブランドの販売が中国市場の需要に牽引されると見込まれている。

だが中国が海外で戦略的技術を持つ企業を手中にする一方、海外の自動車ブランドは同国において、現地パートナーとの合弁による自動車生産しか許されていない。それもパートナー候補は通常2社に限られる。

さらに中国政府の「中国製造2025」計画は、先進的な情報技術・ロボットといった部門において国内部品の使用率を段階的に高めていくことを求めている。

こうなると、ここ数年ドイツの経済力の源泉だった中国向け輸出は、中国企業が優勢になっていく一部の部門においては、リスクに転じていくことになる。最近では、世界最大の太陽光発電用セルのサプライヤーだったドイツ企業が、すでにその座を中国企業に譲りつつある。

独政府当局者は、中国はパートナーではなく、技術やハイエンドの工学におけるノウハウを取得することにより、ドイツ自身と衝突する利害関係をもつ国だとみている。

 「これまでは、さほど強くは感じていなかったが、中国は友人もパートナーも求めていない。中国にとって大事なのは自国の利益だけだ」。11月、ドイツ経済相の中国訪問に同行した代表団の1人は、訪問中にそう語っていた。

だがドイツ産業界のリーダーは、中国によるM&Aを自国政府が制限することについて、おおむね消極的だ。多くの企業が投資を必要としており、中国企業は信頼できるパートナーだと考えている。

ドイツのコンクリートポンプ製造会社プツマイスターは、2012年に中国のライバル企業、三一重工に買収されて以来、従業員の雇用が確保され、売上高も3分の1近く増大した。

 「中国企業による投資をめぐる状況は、一貫して良好だ」とドイツ機械装置産業連盟(VDMA)のティロ・ブロッドマン代表は語る。

産業界の声を意識して、メルケル首相は、経済相による見直しが進むなかであっても、中国からの買収についての状況説明を補佐官に求めている。同首相が投資の流入を妨げる可能性は低い。

ガブリエル経済相が制限措置の見直しを進める一方で、メルケル首相は側近に、中国企業による企業買収についての状況説明を求めている。ある政府筋は「角を矯(た)めて牛を殺す」ことがあってはならないと話している。

(Paul Carrel記者, Gernot Heller記者 and Arno Schuetze記者、翻訳:エァクレーレン)

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